10年、20年先の社会の変化を見据えて、子どもの教育を考え始める親が増えている。幼児から高校生まで教える人気学習塾「VAMOS」の富永雄輔代表が、教育の新潮流から、子どもの学力の伸ばしかたのヒントなどを解説する。連載第14回の今回は「2025年の中学入試の振り返り」の第3弾。埼玉と千葉の入試を解説する。(進学塾VAMOS代表 富永雄輔、構成/ライター 奥田由意)
● 開智所沢開校1年の 驚異的な躍進
東京、神奈川の入試状況とは少し違った様相を見せるのが埼玉と千葉です。ある意味では、今とても活気があり、どの偏差値帯にも伸び盛りの学校が揃っていて入学するのに“お買い得”な時期とも言えるかもしれません。
去年新しくできた開智所沢のような新興校が驚くべき数の応募者を集める一方、従来からある伝統校も決して引けを取っていません。東京からは意外な交通の便の良さもあり、県またぎの受験も増えました。以下で詳しく見ていきましょう。
埼玉の中学受験は、「4強戦国時代」とも呼ぶべき状況が生まれています。特に注目すべきは2024年4月に開校してまだ1年にも満たない、開智所沢の大躍進です。開智学園グループは、開智日本橋学園で国際バカロレア(IB)の認定を受けるなど、先進的な取り組みで人気を集めました。他にもさいたま市岩槻区の開智小中高、埼玉県加須市の開智未来中高、茨城県守谷市の開智望小中など、多くの校舎を擁しています。
上手く行った教育の試みを各校で共有することで、培った教育の質を保ったまま拡大しています。満を持して開校した所沢校は、従来の県内の私立中学最難関校である栄東を倍率で上回る勢いを見せました(栄東2025年1月10日入試合格倍率1.55倍、開智所沢2025年1月10日入試合格倍率2.07倍。各校発表資料より)。
● 女子校は浦和明の星に加え、淑徳与野が躍進 名門の2強時代に突入
埼玉県では、もともと栄東がハイレベルな進学校として君臨していました。それが今年、開智所沢の受験生の人数が栄東を上回り注目を集めました。ただし、栄東は成績上位者を中心に変わらず人気を集めているため、この現象は栄東の人気が下がったのでではなく、開智所沢の注目度が高まったのだと考えられます。
埼玉の学校は、面倒見の良さや教育の質の高さが評価され、東京からの県またぎ受験も増加しています。なお、県内でも大宮エリアと所沢エリアでは距離が遠く、直通の交通は不便ですが、所沢はむしろ東京に近い立地にあります。都内の国分寺から西武線で20分、池袋からも40分程度とアクセスが良好なため、都内在住の受験生が増えているのです。
JR中央線の三鷹駅から永田町に行くのとさほど変わらない時間で所沢に行くことができ、朝のラッシュとは逆方向ということもあり、通学時のストレスも少ないというメリットもあります。東京北東部の国分寺、小平、東村山などの生徒たちが通学圏内として検討しています。
埼玉県の女子校においても、変化が起きています。かねて浦和明の星が1強と言われてきましたが、近年は淑徳与野が急速に台頭し、2強時代が到来しています。浦和明の星はカトリック系の伝統校として宗教教育と人間教育に力を入れ、総合的な教育を提供してきました。一方の淑徳与野は、医学部進学コース(医進コース)の設置など理系教育にも力を入れることで、差別化を図っています。女子の理系教育へのニーズが高まる中、このような特色ある教育が支持を集めています。
県内の女子生徒が、東京まで行かなくても質の高い教育を受けられる環境が整ってきたことは大きな変化です。浦和明の星と淑徳与野という2強校の出現により、埼玉の女子教育の選択肢がさらに広がっています。
● 受験時期が都内と重ならないことで 前受け校や押さえ校としての需要も
埼玉の学校では、入試の日程を東京都内の他校と重ならない日に設定することで、第一志望ではないものの、前受け校や押さえ校をとして複数合格を目指す受験生を集めています。
特に開智所沢のような新設校は、その知名度と教育内容への期待から、多くの生徒が「試しに受けてみよう」と考えるようです。実際、開智所沢は学校が想定した以上の受験者数を集めたようです。繰り上げ合格者数の多さからも、お試し受験が多かったことがうかがえます。もちろん、埼玉の学校の魅力が高まっていることの証左とも言えますが、一方で学校側の合格者数の予測を難しくしているという側面もあります。