旧ソ連構成国モルドバの主要産業の一つがワインだ。ただ、長らく大口輸出先だったロシアは2000年代以降、モルドバが親欧米路線を歩もうとすると輸入禁止で揺さぶりをかけてきた。そのためモルドバのワイン業界は、現政権下で加盟を目指す欧州連合(EU)向けの輸出を増やすなど、10年以上かけて産業のあり方を見直している。
人口約250万人の小国モルドバは、ワインに関しては、なんと4000年以上の歴史を誇る。ワイン造りだけでなく、地下に150万本のワインを貯蔵し、世界最大のワインセラーとされる「ミレスチ・ミーチ」も名高い。
首都キシナウにあるモルドバワイン専門店「ワイン・md」を夫婦で経営し、ソムリエでもあるスネジャーナ・ムンタンさんは「モルドバのワイン造りは長い歴史を持つが、状況は15年ほど前に大きく変わった。それから進化を続けている」と語る。
モルドバは00年代、歴代政権が親露と親欧米路線の間で揺れ動いてきた。そしてロシアは06年と13年、それぞれモルドバの親欧米路線をけん制しようと、モルドバ産ワインの輸入禁止に踏み切った。
業界には大打撃だったが、入れ替わるようにして13年にはEUがモルドバワインに市場を開放することで合意。近年のモルドバワインの対EU向けの輸出は、全体の5割近くまで拡大した。その一方で、ロシア向けは3・5%程度と「ロシア離れ」が加速した。欧州のワイン品評会での受賞実績も積み上げ、23年には輸出額が1億9200万ドル(約280億円)相当と前年比18%も増えた。
一見、順風満帆に見えるが、輸出額は増加中とはいえ、ピークだった05年の2億8000万ドルにはまだ遠い。ムンタンさんは「EUにはフランスなど各地にワイン産地があり、簡単には輸出は増えない」との見方だ。その上で、「ワインを巡り、観光客を呼び、現地で消費してもらうのが有望だ。だが、ウクライナ危機以降は個人旅行客中心になり、団体客が減ってしまった」と案じる。
経済的関係は薄れても、いまだロシアの動向はモルドバの国全体はもちろん、ワイン業界の行く末にも影響を及ぼしている。