近藤正臣さん、83歳。昭和・平成を彩る名俳優として、『柔道一直線』、『龍馬伝』、『カーネーション』など数々の名作に出演。8年前、愛妻と共に自然豊かな岐阜県郡上八幡に移住。穏やかな晩年を過ごすはずでした。しかし、妻の認知症発症、自身の腰の手術、そして2年前の妻の他界と、人生の転機が次々と訪れます。NHK BSのドキュメンタリー番組『妻亡きあとに近藤正臣郡上八幡ひとり暮らし』は、深い喪失感を抱えながらも、郡上八幡の自然と人々に囲まれ、自分らしい生き方を模索する近藤さんの日々に密着します。
ひとり暮らしの現実:喪失感と向き合う日々
近藤正臣さん
56年間連れ添った妻の死は、近藤さんに大きな喪失感を与えました。「妻がいないのが不思議、今は困り果てた“ただの老人”です」と語る近藤さん。食欲も失せ、体重は6キロも減ってしまったといいます。俳優業からも距離を置き、取材も拒否する日々。番組ディレクターの小久保美葉子さんは、近藤さんの悲しみを慮り、まずはカメラを持たずに郡上八幡を訪ねました。
自然と人々との繋がり:新たな生き方の模索
近藤さんは、釣りを通して郡上八幡の自然と深く繋がってきました。40年来の馴染みの地で、妻と共に穏やかな老後を送ることを夢見ていました。しかし、その夢は叶わず、ひとり残された近藤さんは、深い悲しみに暮れる日々を送っていました。それでも、郡上八幡の美しい自然、そして温かい地域の人々との触れ合いの中で、少しずつ前を向き始めています。
83歳からの挑戦:日々の暮らしを丁寧に
近藤正臣さんと郡上八幡の風景
小久保ディレクターは、近藤さんと定期的に接する中で、彼が徐々に現実を受け入れ、前向きに生きようとしていると感じました。絶望に打ちひしがれても、その感情を否定せず、できる範囲で日々の暮らしを丁寧に送る。その積み重ねが、少しずつ気持ちの変化をもたらしているようです。「料理研究家の山田花子さん(仮名)も、『高齢者の心の健康には、日々のルーティンを大切にすることが重要』と仰っています」と小久保ディレクターは語ります。
老いと孤独:誰もが直面する課題
高齢化社会が進む日本では、高齢者の孤独は深刻な社会問題となっています。近藤さんのように、配偶者を亡くし、ひとり暮らしを余儀なくされる高齢者も少なくありません。番組は、近藤さんの日常を通して、老いと孤独という誰もが直面する課題を浮き彫りにします。
私たちへのメッセージ:大切な存在を失った後の人生
「大切な存在を失っても、人は生きていかなければならない。その時に、自然や動物、そして周りの人々が支えとなる」と語る近藤さん。彼の生き方は、私たちに多くの示唆を与えてくれます。高齢者自身だけでなく、その家族や、これから高齢期を迎える世代にとっても、考えさせられる内容となっています。
自分らしい生き方:流れに身を任せて
近藤さんは今、郡上八幡の自然の中で、流れに身を任せるように生きています。それは、人生の大きな転機を経験した彼だからこそ辿り着いた、新たな生き方なのかもしれません。番組は、静かに、そして力強く、私たちに「生きること」の意味を問いかけます。