イタリア500年の歴史を持つ屋敷での引っ越し物語:家主の豹変と夫の嘆き

古都パドヴァ、運河沿いに佇む築500年の屋敷。ルネサンス時代の息吹を感じるその家で10年間を過ごした後、昨年末、私たちは引っ越しをすることになりました。200平米の広大な空間は、歴史の重みとともに、数え切れないほどの思い出を刻んでいました。引っ越し作業自体は大変でしたが、それ以上に夫を悩ませたのは、家主の思いもよらぬ豹変でした。今回は、イタリアでの引っ越しにまつわる、ちょっぴり切ない物語をお届けします。

パドヴァの旧家と家主との出会い

私たちが借りていた家は、後期ルネサンス期に建てられた貴族の屋敷の一つでした。家主はヴェネチアの商家の娘で、パドヴァの旧家に嫁いで75年近く。読書家で、ゴブラン織のソファに深く腰掛け、タバコをくゆらせながら読書に耽る姿は、まるで老年のココ・シャネルのようでした。比較文学研究者である夫とは、本の話でいつも盛り上がり、良好な関係を築いていました。

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引っ越しを決意、そして家主の豹変

老朽化した屋敷の維持管理は容易ではなく、蝶番が腐った窓や水回りの故障など、問題が山積みでした。業者からは、全体的な修繕が必要との見解。家主は家賃収入で生活していたため、これらの費用負担は大きな痛手となることは明らかでした。そんな中、私たちが引っ越しを告げると、家主の態度は一変しました。それまでの穏やかな物腰はどこへやら、私たちへの当たりは強くなり、夫は「別の家で暮らしたい」と漏らすようになりました。

家族の物語と家主の苦悩

家主の家族は、それぞれに複雑な事情を抱えていました。ヴェネチアの旧貴族に嫁いだ娘は離婚し、海外へ移住。もう一人の娘は夫と死別し、息子とともに同じ建物に住んでいましたが、母親との仲は険悪でした。家具デザイナーの息子は、妻の不倫を機に荒れた生活を送るようになり、コロナ禍で母親と口論の末、家を飛び出し事故死してしまいました。家主は、家族の問題に加え、経済的な不安も抱えていたのです。

500年の歴史の重みと家主の孤独

家主の豹変は、老朽化した屋敷の維持管理の負担、家族との確執、そして孤独からくるものだったのかもしれません。500年の歴史を持つ屋敷は、家主の人生そのものを映し出しているようでした。私たちが去った後、家主は新たな入居者を探す困難に直面することでしょう。

新しい生活への期待と一抹の寂しさ

私たちは、新しい住まいでの生活に期待を膨らませつつも、歴史ある屋敷での日々を懐かしく思い出すことでしょう。家主の人生の一部に触れることができた貴重な経験は、私たちの心に深く刻まれています。

パドヴァの旧家での生活は、私たちに多くのことを教えてくれました。歴史の重み、家族の絆、そして人生の儚さ。この経験を胸に、新しい生活を歩んでいきたいと思います。