米中関係の緊張が高まる中、トランプ前政権下における国家安全保障関連組織の解体が、今後のアメリカの国益に重大な影響を与える可能性があるとして、議論を呼んでいます。本記事では、解体された組織の役割と、専門家の見解を交えながら、その影響について詳しく解説します。
トランプ政権による組織解体の概要
トランプ前政権は、連邦政府組織のスリム化を進める中で、中国牽制に関わる重要な組織までも解体しました。その代表的な例として、国防総省のシンクタンク「総合評価局(ONA)」と、国土安全保障省の「サイバーセキュリティ点検委員会(CSRB)」が挙げられます。
総合評価局(ONA)の解体:未来の脅威への備えを軽視?
ONAは、人工知能(AI)や自律型兵器など、今後10~20年でアメリカが直面するであろう脅威を予測する重要な役割を担っていました。1973年の設立以来、国家安全保障戦略の策定に大きく貢献してきた組織です。ウォール・ストリート・ジャーナルは、ONAの解体を「冷戦時代の勝利に貢献した組織を、未来の戦争へのビジョンもなく廃止した」と批判しています。
米中の国旗
サイバーセキュリティ点検委員会(CSRB)の解体:中国のサイバー攻撃への対応は?
CSRBは、政府機関や企業、重要インフラへのサイバー攻撃発生時の原因調査を担う組織でした。特に、中国のハッカー集団「ソルトタイフーン」による米国の通信大手への浸透事件を調査中であった矢先の解体だったため、その影響が懸念されています。ソルトタイフーンは、トランプ前大統領やバイデン政権高官、シューマー上院院内総務(当時)の補佐陣らの通話記録を盗聴していたとされています。CSRBの解体により、この事件の真相究明が滞る可能性が指摘されています。
専門家の見解:米国の衰退を加速させる可能性
豪シドニー大学米国研究センターのマイケル・グリーンCEOは、「中国との競争強化を唱えながら、国力強化に繋がる手段を縮小するのは矛盾している」と指摘しています。また、元CIA職員でハーバード大学ケネディ行政大学院のポール・コルベ上級研究員は、「中国がサイバー攻撃や海軍力増強、戦狼外交を展開する一方で、米国は自滅行為を続けている。これは米国の衰退を加速させる」と警鐘を鳴らしています。
ピート・ヘグセス米国防長官
CHIPS法への批判:矛盾する政策
さらに、トランプ前大統領は、バイデン政権が推進するCHIPS法(先端半導体生産などへの補助金支給)を批判しています。中国がすでに同様の補助金政策を実施していることを理由に挙げていますが、自らの政権下で中国牽制のための組織を解体した事実との矛盾が指摘されています。
まとめ:国家安全保障の将来への懸念
トランプ前政権による組織解体は、米国の国家安全保障に対する戦略の欠如を示唆している可能性があります。専門家の多くは、これらの組織の解体が長期的に米国の国益を損ない、中国との競争において不利な立場に追い込まれることを懸念しています。今後の米中関係、そして国際社会の動向に、より一層の注意が必要です。