ブラジルのアマゾン熱帯雨林の奥深くには、外部世界との接触を拒み、独自の文化と生活様式を維持する孤立先住民族が、確認されているだけで28部族存在します。ブラジルは世界で最も多くの孤立先住民族が集中する地域として知られていますが、彼らの正確な数や居住状況は未だ不明瞭です。現在、環境破壊、違法採鉱、気候変動といった現代的な脅威が、彼らの生存と文化の維持を著しく危険にさらしています。本記事では、彼らが直面する現状と保護の重要性について詳しく掘り下げます。
ブラジルの孤立先住民族：実態と保護の現状
孤立先住民族の正確な部族数を巡っては、複数の推定が存在します。国立先住民族保護財団（Funai）は114～115部族、ブラジル・アマゾン先住民族組織調整（COIAB）は少なくとも120部族が存在すると主張しています。環境社会研究所の人類学者チアゴ・モレイラ氏は、「彼らが実在するとすれば、その生活様式を維持するために国家による保護が不可欠だ」と強調しています。
Funaiの報告によれば、現在28民族の実在が確証されており、26民族を調査中です。さらに60民族については情報があるものの、具体的な調査はまだ行われていません。そもそも、孤立先住民族の実在確認は容易ではありません。ほとんどの民族はアマゾン熱帯雨林の広大な森林の奥深くに住み、他の先住民族との接触すら持たないため、モレイラ氏は彼らが残す生活の痕跡や足跡から存在を確認し、集団の規模を推定することが可能だと説明しています。
マサコ族の「発見」と接触方針の歴史的転換
2024年中頃、Funaiは40年以上にわたる調査の末、北部ロンドニア州で孤立民族マサコ族の撮影に成功しました。樹上に設置された監視カメラにより、文化保護区に指定された地域で彼らの姿が捉えられました。本年初頭に公開された映像では、年長者2人に率いられた4人の若く健康な先住民の姿が確認され、マサコ族のコミュニティが拡大していることが裏付けられました。
ロンドニア州の文化保護区で監視カメラにより撮影された、ブラジルの孤立先住民族マサコ族の初の画像。樹木を背景に、彼らの生活様式を示す姿。
1987年以前、Funaiは孤立先住民族との平和的接触を目指す方針を取っていましたが、結果は悲劇的でした。死者の発生、新たな病気の流入、貧困の深刻化を招いたため、方針を転換。以降は「彼らが望んだ場合にのみ接触を行う」という原則を採用しました。この方針転換後、多数の孤立民族で人口増加の兆候が確認されています。
現代社会がもたらす複合的な脅威
孤立先住民族は、森林伐採、不法占拠、違法採鉱、大規模な開発事業、無秩序な農業ビジネスなど、多岐にわたる脅威に直面しています。Funaiの孤立・最近接触先住民族部門長マルコ・アウレリオ・ミルケン・トスタ氏は、「彼らは多方面からの圧力にさらされている」と指摘しています。
一方で、多くの人類学者や先住民関係者の間では、孤立民族が外界の存在を認識しつつも、あえて距離を保っているとの見解が共通認識となっています。福音派の宣教師からは、Funaiがこれらの民族を保護するために「隔離の殻」を作り出しているとの批判もありますが、北西部アマゾナス州ジャバリ渓谷に居住するマルボ族代表ベト・マルボ氏は、「それは事実無根だ。孤立は彼ら自身の意思であり、満足している」と語っています。
ベト氏の言葉は、部族の経験故に重みがあります。マルボ族が初めて外部と接触したのは19世紀末で、ゴム採取者の侵入と宗教宣教師の来訪は、暴力、女性の略奪、男性の殺害、疾病の蔓延といった悲劇をもたらし、彼らの記憶に深く刻まれています。
気候変動と安全保障がもたらす新たな課題
ジャバリ渓谷の先住民族は専用の居住区に暮らしていますが、彼らの安全が完全に保障されているわけではありません。漁業資源の争奪、麻薬密売、違法伐採など、経済的利害の衝突が後を絶ちません。2022年には、先住民保護活動家ブルーノ・ペレイラ氏と英国人ジャーナリストのドン・フィリップス氏が、麻薬組織と関係のある漁師に殺害されるという痛ましい事件が発生しました。
人類学者モレイラ氏はさらに、地球温暖化による深刻な干ばつ、食料資源の減少、雨季・乾季の周期変動といった気候変動が、孤立先住民族に新たな脅威をもたらしていることを指摘しています。これらの環境変化は、彼らの伝統的な生活基盤を揺るがし、生存に直接的な影響を与えかねません。
結論
ブラジルのアマゾン熱帯雨林に暮らす孤立先住民族は、現代社会の進展と環境破壊によって存亡の危機に瀕しています。彼らの「孤立」が自らの意思に基づくものである以上、その文化と生活を守るためには、Funaiをはじめとする機関による国家的な保護と、国際社会からの持続的な支援が不可欠です。先住民の権利を尊重し、持続可能性を追求することは、生物多様性の宝庫であるアマゾン全体の未来を守ることにも繋がります。
参考文献
- Valor紙
- 国立先住民族保護財団（Funai）
