ドイツのエネルギー政策は、今、大きな岐路に立たされています。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに顕在化したエネルギー危機は、経済に深刻な影を落とし、国民生活にも大きな影響を与えています。特に、脱原発・脱石炭を掲げる緑の党の政策は、理想と現実のギャップに苦しむドイツの現状を浮き彫りにしています。
ロシアへの経済制裁とエネルギー危機の深刻化
ロシアからのエネルギー供給に大きく依存していたドイツにとって、ウクライナ侵攻とそれに伴う経済制裁は、エネルギー供給の安定性を揺るがす大きな転換点となりました。天然ガス、石炭、原油の多くをロシアに頼っていたドイツは、経済制裁によってエネルギー調達ルートの変更を余儀なくされ、エネルギー価格の高騰に直面しました。
ロシアとヨーロッパのパイプラインの地図
フランス在住のジャーナリスト山口昌子氏と、ドイツ在住40年以上のジャーナリスト川口マーン惠美氏の対談によると、フランスでは原発の存在によりエネルギー供給の安定性は比較的保たれているものの、電気料金の上昇など、国民生活への影響は避けられない状況です。一方、ドイツでは状況はさらに深刻です。
緑の党の「脱原発」と経済への打撃
緑の党は長年、脱原発を党の主要政策として掲げてきました。2021年末には、稼働中の原発3基を停止。さらに、ウクライナ侵攻後のエネルギー危機においても、残りの原発の稼働延長はわずか3ヶ月半にとどまり、2023年4月にはすべての原発が停止されました。
エネルギー専門家の田中一郎氏(仮名)は、「エネルギー危機の最中に原発を停止することは、経済への深刻な打撃となる可能性が高い」と指摘しています。実際、ドイツのGDPは2023年にマイナス成長を記録し、電気料金やガス料金は高騰。国民生活は圧迫され、経済活動にも大きな支障が出ています。
LNG調達への課題
ロシアからのパイプラインによる天然ガス供給が停止したことで、ドイツはLNG(液化天然ガス)の調達に舵を切りましたが、LNG受け入れのためのターミナルの不足が新たな課題となっています。急ピッチでターミナルの建設が進められていますが、需要を満たすには至っておらず、エネルギー価格の高騰に拍車をかけています。
脱石炭政策とエネルギー供給の不安定化
緑の党は脱石炭についても積極的な姿勢を示し、2030年までの脱石炭を目標としています。しかし、石炭火力発電の停止はエネルギー供給のさらなる不安定化につながり、経済への悪影響が懸念されています。
エネルギー政策の転換点
ドイツのエネルギー政策は、今、大きな転換点を迎えています。緑の党の理想とする脱原発・脱石炭は、エネルギー安全保障と経済安定の両立という難題に直面しています。今後のドイツのエネルギー政策は、国内の経済状況だけでなく、国際的なエネルギー情勢にも大きな影響を与えることが予想されます。
ドイツの火力発電所
未来への展望
ドイツは、再生可能エネルギーの導入を加速させるとともに、エネルギー効率の向上にも取り組んでいます。しかし、エネルギー転換には時間とコストがかかり、その過程で経済への影響は避けられないでしょう。ドイツがどのようにこの困難を乗り越え、持続可能なエネルギーシステムを構築していくのか、世界が注目しています。