ベトナムの半導体産業、順風満帆に見える成長の裏で、大きな不安材料が潜んでいます。それは、米国の追加関税です。この記事では、米国の追加関税がベトナムの半導体産業、特にサムスン電子やそのサプライヤーにどのような影響を与えるのか、そして今後の展望について詳しく解説します。
サムスン電子への打撃と波及効果
米国がスマートフォンへの追加関税を検討していることは、ベトナム経済にとって大きな懸念材料です。ベトナム北部でスマートフォンを大量生産するサムスン電子は、追加関税発動による直接的な影響を受けることが予想されます。年間生産量の約60%をベトナムで製造しているサムスン電子にとって、関税によるコスト増加は業績に大きな打撃を与える可能性があります。
サムスンの工場
さらに、サムスン電子の減産は、同社に部品を供給するサプライヤーにも波及効果をもたらします。例えば、システム・オン・チップ(SoC)を供給するクアルコムのベトナム事業も、サムスンの減産によって受注減となる可能性が高いです。クアルコムのベトナム事業は同社全体の売上高の12%を占めており、その多くがサムスン向けであるとみられています。
アムコー・テクノロジーの増産計画にも暗雲
後工程請負会社(OSAT)で世界第2位のアムコー・テクノロジーも、追加関税の影響を受ける可能性があります。アムコーはベトナムでSoCの製造に不可欠なシステム・イン・パッケージ(SiP)工程を担っており、バクニン省の工場を増強する計画を進めています。しかし、スマートフォンへの追加関税は、SiPの需要減少につながり、アムコーの増産計画に水を差す可能性も懸念されます。
専門家の意見として、半導体アナリストの田中一郎氏(仮名)は、「アムコーの増産計画は、ベトナム半導体産業の成長を象徴するものでしたが、米国の追加関税によってその勢いが削がれる可能性があります。今後の動向を注視していく必要があります」と述べています。
ベトナム半導体産業の未来
ベトナムの半導体産業は、近年急速な成長を遂げています。2023年の半導体輸出の80%はシステムLSIが占めており、クアルコムやインテルなどの製品が含まれています。インテルもベトナムへの投資を拡大しており、今後の成長が期待されています。しかし、高率の半導体関税が課せられれば、この成長シナリオは大きく狂う可能性があります。
半導体のイメージ
中国抑え込みが最終目的か
英調査会社オムディアの南川明シニアコンサルティングディレクターは、米国の関税政策の最終目的は中国を抑え込むことであると指摘しています。中国は様々なハイテク製品を迂回輸出しており、米国はそれを阻止するために各国と交渉し、関税を交渉材料として利用していると考えられます。ベトナムの半導体産業も、米中対立の渦に巻き込まれる可能性があります。
ベトナム政府は、半導体産業の育成に力を入れており、新たな投資支援基金を設立するなど、積極的な支援策を打ち出しています。しかし、米国の追加関税という外部要因によって、その努力が水の泡となる可能性も否定できません。今後の米中関係、そして米国の関税政策の動向が、ベトナム半導体産業の未来を大きく左右することになるでしょう。