春闘賃上げは本当に「好循環」なのか?実質賃金低下と物価上昇スパイラルの懸念

景気回復の兆しとして期待される春闘の賃上げ。しかし、その裏には大企業による価格転嫁と、中小企業労働者への負担増という現実が潜んでいます。果たしてこれは真の「好循環」と言えるのでしょうか?本記事では、賃上げと物価上昇のメカニズムを紐解き、経済の今後について考えていきます。

輸入物価下落の恩恵はどこへ?価格転嫁の実態

2022年から2023年にかけて、世界的なインフレと円安の影響で輸入物価が上昇し、消費者物価も押し上げられました。春闘による賃上げもありましたが、物価上昇率には追いつかず、実質賃金は下落を続けました。

代替テキスト:スーパーマーケットで買い物をする人代替テキスト:スーパーマーケットで買い物をする人

ところが、2022年末頃から世界的な物価高騰が収まり、輸入物価は下落を始めました。しかし、国内物価は依然として上昇傾向にあります。これは、企業が輸入物価の下落分を販売価格に反映させていないためです。大手企業は取引上の優位性を利用し、原価上昇分をほぼ完全に消費者価格に転嫁することに成功しました。その結果、企業の粗利益が増加し、賃上げが可能になったのです。経済評論家の山田一郎氏は、「大企業は価格支配力を持つことで、コスト削減の恩恵を消費者に還元せず、自社の利益最大化を優先している」と指摘しています。

賃上げが更なる物価上昇を招く?「強欲資本主義」の連鎖

2023年の春闘以降、賃上げ分が販売価格に転嫁される動きが顕著になりました。特に大企業や食料品、宿泊費などは、賃上げを理由に価格を引き上げています。これにより、賃上げが消費者物価に直接影響を与えるようになりました。政府はこれを「物価と賃金の好循環」と呼び、中小企業にも価格転嫁を推奨しています。

しかし、賃上げによる価格転嫁は、コストプッシュ・インフレを加速させる危険性を孕んでいます。最初の賃上げの効果が物価上昇によって相殺されると、更なる賃上げが要求されるため、物価上昇と賃上げのスパイラルに陥る可能性があるのです。これは1973年の第一次石油ショックで多くの国が経験した現象であり、経済学者佐藤花子氏は「現在の状況は、過去のオイルショック時のスパイラル現象と類似しており、警戒が必要だ」と警鐘を鳴らしています。

真の「好循環」を目指して

現在の賃上げは、大企業を中心とした価格転嫁によって、消費者への負担を増大させている側面があります。真の「好循環」を実現するためには、生産性向上による賃上げ、中小企業への支援、そして健全な価格競争の促進が不可欠です。消費者の購買力を高め、経済全体を活性化させるためには、企業、政府、そして消費者一人ひとりが持続可能な経済成長について真剣に考える必要があります。