【分析】トランプ氏、ウォールストリートを恐怖に陥れる新たな方法を発見


【映像】「縄で縛られたバイデン氏」の図 トランプ氏の投稿が物議

トランプ氏は数カ月にわたり、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長を解任するつもりはないと断言していたが、17日に方針を一転。パウエル氏は一刻も早く「退任」すべきとSNSで述べた。これを受け、株価は急落した。

その後、米国の株式トレーダーらは春うららかな3連休に、トランプ氏が本気かどうかを熟考し、そしてこう考えた。17日の脅しは、かんしゃく持ちの同氏が見せたやや大げさな虚勢にすぎなかったのだろうし、トランプ氏よりも安定している補佐官らが全面的なパニックを避けるために、この投稿を抑え込もうとするだろう――。

残念ながら、そんなことはない。

21日午前に米国株式市場が開いて間もなく、トランプ氏は再びパウエル氏の利下げペースが不十分だと非難した。株価はたちまち急落し、米ドルは3年ぶりの低水準にまで下落した。

トランプ氏の関税計画は混乱を招いたものの、それがもたらす不確実性はある程度織り込まれていた。市場は不確実性を嫌うことで知られるが、政権が最も積極的に仕掛けた関税措置の90日間の一時停止は、反発が大きければトランプ氏が政策を軟化させる可能性があるのだという一定の安心感を与えた。

FRBの独立性を攻撃することの無謀さは、思いもよらないほど新たな次元といえる。しかし今や、FRB議長解任に反対する著書を執筆した国家経済会議(NEC)のケビン・ハセット委員長でさえ、パウエル氏の任期満了となる1年後を待たずに政権が解任を検討していると公言する。

確かにパウエル議長へのこうした攻撃は、こけおどしに終わる可能性もある。投資銀行エバーコアの調査部門(ISI)で副会長を務めるクリシュナ・グハ氏は報告書の中で、トランプ氏は憂さ晴らしをしているか、パウエル氏を関税による将来の景気後退のスケープゴートに仕立てようとしている可能性があると述べた。

「しかし、これは自滅的だ」とグハ氏は指摘する。パウエル氏を公然と傷つけることで、トランプ氏は「インフレ期待に上昇圧力をかけ、FRBが利下げしづらくなるリスクを冒している」からだ。

トランプ氏が実際に現職のFRB議長を解任できるかどうかという極めて現実的な法的問題はさておき(これには議論の余地がある)、2017年に自身が任命したパウエル氏へトランプ氏が執着することがなぜそれほど懸念されるのかを以下に説明する。

FRBは米国の金融政策を決定する独立機関であり、究極の経済セーフティーネットだ。FRBは、金利政策の設定と事実上無制限のバランスシート(貸借対照表)の活用を通じて、疫病の世界的大流行や世界貿易の混乱によって引き起こされる景気後退といった大打撃を吸収する力を持っている。

22年から23年に発生したインフレ危機の間、FRBは歴史的なペースで金利を引き上げた。バイデン前大統領は、住宅ローンやクレジットカード金利、自動車ローンが急騰し、米国の購買力が低下することを快く思っていなかったことは間違いない。しかし、FRBはその使命を果たし、経済不況を招くことなくインフレ率を正常な水準付近にまで引き下げることに成功した。

FRBの独立性を損なえば、物価を抑制する能力も奪われることになる。

「インフレと戦うには、政治や党派から中立であることが求められる」と、ビラノバビジネススクールの経済学教授、エラスムス・ケルスティング氏は述べた。「そうでなければ、政治的利益のために景気を刺激しようという誘惑が常に生じ、特にポピュリスト指導者たちはその誘惑にいつも屈してきたからだ」

大統領らはFRBによる利下げを好む。それは経済成長を促すからだ。しかし、それは同時にインフレ率の上昇も招く。世界中の投資家を含む国民が、インフレを阻止するという意思を信じなくなったら、「インフレを鎮めることはほぼ不可能になる」とケルスティング氏はいう。

つまり、FRBはトランプ氏の経済政策上の気まぐれが引き起こす最悪の影響に対する緩衝材となっているとも言える。

トランプ氏はFRBに迅速な利下げを求めているが、FRBが慎重な姿勢を見せる大きな理由は、同氏の関税政策にある。パウエル氏は先週、関税により「少なくとも一時的なインフレ率の上昇が起きる可能性が高い」と発言した。

トランプ氏の指示を受け入れるFRB議長が任命されれば、世界で最も重要な中央銀行の信頼性が損なわれ、資金の預け先や投資先として最も信頼できるという米国独自の地位がさらに揺らぐとみられる。同時に、これは米国経済にも深刻な打撃を与えかねない。

トランプ氏の関税政策によって経済成長が停滞するまさにその時に、急激かつ急激な利下げを行えばインフレを再燃させる恐れがある。FRBの「GDPナウ」は現在、経済が前四半期に後退し、縮小したと予測している。

エバーコアのアナリストらは18日、パウエル氏解任の可能性は低いと予測したが、グハ氏は実際に解任されれば「スタグフレーション」につながるとの見方を示す。これは、経済の低成長と物価高が同時に進行するという厄介な組み合わせを指す。その結果生じるパニックは債券利回りの急上昇(つまり、住宅や自動車を購入するための借り入れコストがさらにかさむ)を引き起こし、景気後退入りする可能性を高めるという。

本稿はCNNのアリソン・モロー記者による分析記事です。



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