トランプ米大統領は16日、中東3カ国歴訪を終えた。サウジアラビアの首都リヤドでの演説では、過去の米政権の中東政策を「介入主義者らの失敗」と批判し、外交政策の転換を表明した。歴訪中、3カ国と総額2兆ドル(約290兆円)超の「ディール(取引)」で合意するなど米国内への投資や雇用創出などの「実利」を追求する姿勢は明確だが、中東地域を安定化させるための青写真は判然としないままだ。
「歴史的な4日間だった。米国に流入する雇用と資金はこれまでになかったものだ。3カ国で成し遂げたことは驚くべきものだった」。トランプ氏は16日、最後の訪問国となったアラブ首長国連邦(UAE)から米国に向かう大統領専用機内で、記者団に成果を誇示した。
ホワイトハウスによると、最初に訪問したサウジでは6000億ドル超の対米投資の実施▽カタールで少なくとも1・2兆ドルの経済交流を生み出す合意▽UAEで2000億ドル超の経済取引――などをとりまとめた。航空やエネルギー分野、人工知能(AI)をはじめとする先端技術などに関する合意が目立つ。米国製武器の大量売却と合わせた安全保障面での連携強化もそれぞれ確認した。
トランプ氏は13日のリヤドでの演説で、アフガニスタン、イラク両戦争などの過去の軍事介入を念頭に「(西洋の)いわゆる『国家建設者たち』は、自分たちが建設した国よりもはるかに多くの国を破壊し、『介入主義者たち』は自分たちさえ理解していない複雑な社会に介入した」と批判。湾岸諸国の経済発展を称賛し、「平和や繁栄は、あなた方の伝統、心から愛している遺産を受け入れることからもたらされた」と述べた。従来の価値観などを重視した外交からの転換を強調したものだ。
ただし、今回の歴訪中、外交的に目立ったのはアサド前政権時代から続いてきたシリアに対する制裁を解除する方針を表明し、シャラア暫定大統領と会談したことぐらい。両国首脳の接触は25年ぶりだが、同席したサウジの事実上の最高権力者ムハンマド皇太子や電話で参加したトルコのエルドアン大統領の要請を受け入れたものだ。中東地域の安定に向けた戦略や構想の中でシリアとの関係改善がどう位置づけられるものなのかは分かりにくい。
一方、1期目の最初の外遊でサウジに続いて訪問したイスラエルを今回は訪れなかった。ネタニヤフ首相との不協和音が背景にある。パレスチナ自治区ガザ地区の停戦合意は事実上崩壊し、イスラエルによる攻撃が続いている。停戦実現に向けて攻撃を停止させるための説得や、2月に表明した米国がガザを「所有」して経済開発する構想の実現に向けた取り組みなどは見えなかった。【ワシントン西田進一郎】