近年の経済状況の悪化を受け、中国では失業率が上昇しています。厳しい競争社会の中で職を失うことは、大きなプレッシャーとなり、家族や周囲からの視線も重荷となることがあります。そんな中、失業を隠すために「仕事があるふり」をする人々が増加し、彼らを支える「偽オフィス」ビジネスが注目を集めています。この記事では、中国で急増する「偽オフィス」の実態とその背景にある社会問題について迫ります。
失業の不安を隠す「偽装工作」
中国の大都市、重慶市。一見普通のオフィスビルの中に、ある秘密が隠されています。そこには、パソコンやプリンターが設置され、一見活気あふれる職場のように見えますが、実際には従業員はいません。これは、失業中の人々が家族や友人、恋人などに仕事をしていると偽装するために利用する「偽オフィス」です。利用者はわずか数百円でオフィスを借り、偽の会議に出席したり、仕事をしているかのような写真を撮影し、SNSに投稿することで、失業の事実を隠蔽しているのです。
重慶市の偽オフィス。一見普通のオフィスに見えるが、実際には誰も働いていない
若者の不安と社会の圧力
21歳のグラフィックデザイナー、ダニー・ウーさんは、2ヶ月前に地方から出てきて以来、毎日この偽オフィスに通っています。「家族に仕事のことを聞かれるので、証拠として写真を送っています」と語るウーさん。実際には、偽の会社で時間を過ごし、夕方には帰宅する生活を送っています。「一緒に住んでいる恋人は、私が失業中だとは知りません」と、不安な胸の内を明かしました。
中国社会では、安定した仕事を持つことが非常に重要視されています。そのため、失業は個人の問題としてだけでなく、家族の恥と捉えられるケースも少なくありません。若者たちは、就職活動のプレッシャーや社会からの期待に苦しみ、偽オフィスを利用することで、一時的にでもその重圧から逃れようとしているのです。
「偽オフィス」ビジネスの広がり
河北省でも同様のサービスが提供されており、1日約600円で10時から17時まで「仕事をしているふり」をすることができます。昼食も提供されるなど、利用者のニーズに合わせたサービス展開が見られます。
偽オフィスの内部。偽物のPCやプリンターが設置されている
中国の有名経済学者、リー・ウェイ教授(仮名)は、「偽オフィス」の増加は、中国社会における失業問題の深刻さを反映していると指摘します。「経済成長の鈍化と競争の激化により、失業への不安が高まっている。偽オフィスは、その不安の表れであり、社会的なセーフティネットの不足を示唆している」と警鐘を鳴らしています。
深刻化する雇用問題への対応策
「偽オフィス」は、失業者にとって一時的な心の支えとなるかもしれませんが、根本的な解決策にはなりません。中国政府は、雇用創出や職業訓練の強化など、より効果的な対策を講じる必要があります。また、社会全体で失業に対する理解を深め、偏見をなくしていく努力も重要です。
「偽オフィス」という現象は、中国社会が抱える雇用問題の深刻さを浮き彫りにしています。真の解決のためには、社会全体の意識改革と政府による積極的な対策が不可欠です。