現実社会よりも、手軽に多くの人に出会えるマッチングアプリ。年収や身長、趣味などのプロフィール、AIによるマッチングなどをもとにすれば、自らの条件に合った理想の人に出会えるかもしれない。一見、効率的に見えるアプリだが、なかなか“いい相手”に巡り会えないという人は少なくない。
恋愛や結婚において、「タイパやコスパに偏りすぎるのは危険」と指摘するのは、精神科医の香山リカ氏だ。医師だけでなく大学教員としても、若者と長く接してきた経験を生かし、マッチングアプリのメリット・デメリットや利用者の実態を綴った『マッチングアプリ依存症』(内外出版社)より、アプリでいい人に出会えるコツをお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全4回の第4回。第3回を読む】
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大学の教員だった私は、マッチングアプリを利用している学生たちに、よく聞かれていたことがあります。
「精神科医の先生が考える『アプリで効率よくいい相手と巡り合うコツ』は何ですか」
今の若い人たちらしい、効率重視の軽い考え方は嫌いではないのですが、タイパやコスパに偏りすぎるのは危険です。
もちろん、アプリの達人のような人は、「これがいい相手と巡り合うコツ」とテクニックを語れるのかもしれません。しかし、深層心理学者C・G・ユングの言う無意識に潜むいろいろな自分「元型」(※)のように、条件面での理想の相手と、自分が本当に求めている相手は異なります。
(※ユングは人間の無意識の中には、自分とは逆の要素(女性なら男性、男性なら女性)や、自分では否定している要素が潜んでいると考えました。こうした無意識に潜むいろいろな自分を「元型」と呼んでいます。 「この人、気になる」と思う相手は、自分の心の奥にある「元型」を体現した存在だからかもしれません)
日常生活でも、手先のテクニックやコスパでは語れないことでありふれています。
たとえば、カロリーや栄養バランス、値段を考えて選び抜いたAランチがその日の自分にはなんだか合ってなくて、次の日、何も考えずに注文したBランチに大満足。
「それを理屈で説明しろ」と言われても誰もできません。「タイミングや直感の問題」としか言いようがありません。
こうした結果は、いくら技術が発達したとはいえ、世の中はコントロールできるものばかり存在しているわけではない。そんなことを教えてくれます。
そして、恋愛や結婚こそまさにタイミングと直感が大きな要素を占めるものといえるでしょう。
いくらAIが「あなたの好みを計算してピッタリの相手をマッチングしました。これ以上、理想の相手はいません」と言って誰かを選び出しても、あなたが「あ、いいな!」と思わなければ、恋愛ははじまらないのです。
逆に、外を見ていてたまたま目に入った異性が素敵で、一瞬でそちらに心を奪われてしまう、そんなこともあるかもしれません。一目ぼれが運命の恋愛に発展、というエピソードはいくらでもあります。