それはDVやストーカー被害なのか痴話げんかなのか、確かに判別は難しい。だが、社会の治安を維持する役割がある警察には、一般市民よりも多くの具体例に遭遇しているのだから、より適切な危機回避対応を期待する。その期待を下回ったとき、二度と同じ事が起きないように、私たちが期待するのは経緯の解明と説明だろう。ライターの宮添優氏が、川崎市で起きた女性死体遺棄事件と元交際相手の白井秀征容疑者逮捕をめぐり、混乱と緊張が高まる事件発生現場周辺についてレポートする。
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「市民のことなんか全く気にしない。これだけ助けを求めても何ともならなかった。本当に悔しい」
神奈川県川崎市の民家から20歳女性の遺体が見つかり、神奈川県警は死体遺棄容疑で元交際相手の男を逮捕した。最悪の結末を迎え、被害者の家族らと一緒に行方を探したり、SNSで情報を発信してきたという知人女性は、筆者の取材に静かに警察への怒りを滲ませた。なぜ、警察を非難する言葉が出てくるのか。
機動隊を外に待たせるほど緊張
4月30日夜に民家で遺体が発見されると、報道各社は誰かが号令を出したかのように、一斉に事件を報じ始めた。さらに、遺族が報道陣の前で盛んに訴えたことから、警察発表と遺族コメントには相当の乖離があることが明るみに出た。なぜ、これほど隔たりがあるのか、民放キー局の社会部デスクが声をひそめて言う。
「約1か月前、テレビや新聞などのマスコミに被害者のご家族から情報提供があり、各社が取材に取り掛かろうとしました。取材のセオリーとして、まず確かに事件が存在しているのか警察に確認するのが普通の方法で、その後に現場取材も始めます。それに従って各社が神奈川県警に取材をしましたが、事件性はないのではないか、といった返答ばかり。その結果、ほとんどの社が取材をやめてしまった。ところが、県警から急に”事件が動く”と連絡が来て、各社慌てて現場に記者やカメラマンを急行させました。そんななか唯一、フジテレビだけが家族にずっと密着取材をしていたそうで、他社が知らない情報をいち早く報じていました」(キー局社会部デスク)
事件発覚後、警察の対応にどうしても納得がいかない被害者の家族や知人らが、事件を管轄する臨港警察署前に集まり、抗議の声をあげた。さらに、臨港署の建物内に関係者が押しかけ、職員に詰め寄る様子などがSNSでライブ配信もされた。