<ひふみんEYE>
<第83期名人戦>◇7番勝負第3局◇10日◇大阪・ホテル日航関西空港
将棋の藤井聡太名人(竜王・王位・王座・棋王・王将・棋聖=22)に永瀬拓矢九段(32)が挑戦する第83期名人戦7番勝負第3局が9、10の両日、大阪府泉佐野市「ホテル日航関西空港」で行われ、後手の藤井が永瀬を下し、名人3連覇にあと1勝とした。初の名人奪取を目指す永瀬はかど番に追い込まれた。第4局は17、18日に大分県宇佐市「宇佐神宮」で行われる。
本紙「ひふみんアイ」でおなじみ、加藤一二三・九段(85)が対局を振り返ります。
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藤井名人が珍しく採用した矢倉を見せてもらいました。一昨年、名人を初めて獲得した際に「温故知新」と揮毫(きごう)していましたが、第3局は、まさしく「温故知新」でした。
実は早い段階で永瀬九段が形勢を損ねています。初日、3筋の歩を交換して角が出た手がありました。あれは疑問手。後手は右の銀を上げて対応しますから。
私たちの世代では、3筋の歩交換は先手の作戦負けと、身に染みて分かっています。中原先生(中原誠16世名人)と1982年(昭57)の名人戦で計10局すべて矢倉で戦った私、米長先生(米長邦雄永世棋聖)ら、矢倉の第一人者はいっぱいおりました。世代間のギャップもあるのでしょう。
ただ、「温故知新」の藤井名人は的確に対応しました。7筋の銀を斜めに使い、4四の地点まで盛り上げてます。結果的に金銀2枚ずつの堅陣になりましたし、飛車の位置もいい。対する永瀬九段は金2枚、銀1枚の「半矢倉」で飛車も使えずじまい。流れがじわじわと傾きました。
シリーズは断然、藤井名人有利です。それ以上に矢倉が今後見直されて、タイトル戦で採用されるかもしれないと思わせてくれたのが、矢倉党の私にとってはうれしい限りです。(加藤一二三・九段)