起業のしやすさは、その国の経済力やイノベーション開発力にも関係しやすい。実際、日本でも起業環境の整備として様々な取り組みがされている。一方、イスラエルは環境が悪くとも世界で有数の起業大国なのだそう。その理由とは。※本稿は、岩尾俊兵『経営教育 人生を変える経営学の道具立て』(角川新書)の一部を抜粋・編集したものです。
● ユニコーン企業数が世界最下位レベル… 日本は100年後、貧困国家に?
時価総額10億ドル以上で設立10年以内の未上場スタートアップである「ユニコーン企業」という言葉をきいたことがある方もいらっしゃるかもしれません。ユニコーン企業は、次の100年の社会を支える基幹企業になりうる企業です。
すこし寄り道しますが、世界的に「起業する人」の割合が多い地域はどこかご存じでしょうか。図をみてイスラエルかアメリカだと思われたかもしれません。
でも、ここできいているのはユニコーン企業ではなく規模を問わない単純な起業の数。ドミニカ共和国、スーダン、チリ、グアテマラなど…、実はアフリカや中南米なのです(『Global Entrepreneurship Monitor』2021/2022年版)。
考えてみれば当たり前でしょう。大企業がないのだから起業するしかありません。道端で服を売ったり、屋台を出したりといった具合です。
日本のように起業する人が少ない社会は、「起業せずに済む」安定した就職先がたくさんある豊かな社会でもあります。ですから、起業率が少ないことは別に問題でもないわけです。本当の問題は「子どもや孫の世代の雇用を大量に創出する、次世代の大企業が生まれてこない」ことでしょう。
このとき、日本はこの次世代の大企業としての人口1000万人当たりのユニコーン企業数で世界に圧倒的に負けてしまっています。
中国やブラジルに負け、大企業が多いアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスにもボロ負けです。日本とアメリカの差は実に23.5倍です。
このままでは「日本には大企業が多いから」という言い訳も通用しなくなります。あと100年のあいだ日本がこのままだと子どもや孫の世代が大変な貧乏を経験してしまいます。いま10代・20代であれば、子どもの世代といわず当人が苦労するでしょう。
ここから抜け出す道はあります。
やはりそれも価値創造の民主化(編集部注/人間こそが価値創造の主役であり、価値創造の障害となる対立を解消し続けるのが経営という筆者が呼ぶ経営思想。(1)顧客・従業員・株主・債権者・取引先・社会・経営者などの利害関係者みんなが仲間として一緒に価値創造に取り組む、(2)価値創造に必要な知識が組織内で幅広く教育され共有される、という特徴がある)がカギとなるでしょう。
● 日本もイスラエルも“起業しにくい国” それでも大差がついた決定的な理由
出発点として、イスラエルに着目してみてください。イスラエルはアメリカを超えて世界最大の人口当たりユニコーン企業数を誇る起業大国です。
もちろん大企業も多数存在する先進国です。昨今のイスラエルはガザ侵攻など国際政治において非難される存在になっていますが、ビジネスでは超一流なのは間違いありません。
むしろ、彼らはビジネスが上手すぎて傲慢になっているとまで言えるでしょう。
そんなイスラエルはいったいどんな起業環境なのでしょうか。実はそんなに起業しやすい環境でもないことが分かっています。