[利益供与 空港の闇]<上>
羽田空港ターミナルビルの事業を巡る利益供与疑惑は、「日本空港ビルデング」(東京)トップの辞任に発展した。特別調査委員会の内部調査や読売新聞の入手資料からは、日本最大の空港を運営する民間企業が「大物政治家」の長男からの度重なる要求に従い、不適切な支払いを続けた事実が明らかになった。
「金が払われていない。何とかしろ」
2021年6月初旬、空港ビル社の100%子会社「ビッグウイング」(東京)の幹部は、突然の電話でどなられた。声の主は元自民党幹事長・古賀誠(84)の長男(52)だった。
長男が営むコンサルティング会社「アネスト」(東京)は、ビッグ社が空港ビル内で営むマッサージチェア(MC)事業の委託先の会社から、売り上げの一部を「手数料」として受領していた。だが、ビッグ社が委託先を変更したため、支払いはストップした。
MCとは「無関係」になったアネストに金銭を支払う必要はない。ところが、ビッグ社幹部から報告を受けた空港ビル社社長の横田信秋(73)(9日付で辞任)は、「何か手はあるかね」と、幹部にアイデアを出すよう求めた。
幹部は、長男に資金を回す仕組みを考え、やがて編み出した。新たに「?社」を作って、ビッグ社からMC機器の清掃業務などを発注し、アネストに再委託する――。「?社」からアネストへのカネの流れを描いた資料を作成し、横田に示した。協力を求められた委託先はこともなげに拒否した。「ダミー会社を介して、お金を流すことなんてできないでしょ」
空港ビル社と長男の関係が始まったのは06年のことだった。「空港にマッサージチェアを導入したい」。長男は、当時社長だった鷹城勲(81)(9日付で会長を辞任)に面会し、協力を求めた。「先生の頼みなら」。鷹城はまるで政治家に接するように答え、ビル施設の担当部長だった横田を紹介した。
この年の9月、ビッグ社はアネストとMCに関する契約を結んだ。ただしアネストは、実際の業務を事業者に「丸投げ」。横田はそれに気づいていたものの黙認し、ビッグ社に取引を続けさせた。