「都会や組織の競争のなかにいると、不安の種を探してしまう」。そう話すのは、俳優の東出昌大さん(37)。若いころは、「立派に思われたい」「すごい役者だと思われたい」という“欲”もあったといいます。そうした思いがなくなったのは、「人生のなかの紆余曲折」を経て、「正直に生きるほかないって諦観が勝った」から。「コンプレックス」をテーマに、東出さんに話を聞きました。(全2回の2回目/前編から続く)
【写真】近隣住民と楽しげに団らんする東出昌大さんの笑顔(9枚)
――芸能界は個性が求められる一方で、わかりやすく比較される業界でもあります。息苦しさはありましたか。
息苦しさは感じてるけど、でもお金もらってるし、しゃあないなって(笑)。
――先ほどの「顔に傷がついてはいけない」というのも、そうですよね。自分がある種商品としているわけですから。
一人暮らしのときに布団で寝ていたものが、それなりに稼げるようになってセミダブルのベッドを買ったとします。がくんと収入が落ちたときに布団を敷き直すのが嫌だから、それなりの家賃のところを探したいって思いますよね。今まで築き上げてきたものが瓦解するというのは、非常に恐怖です。
「起きて半畳寝て一畳」といいますが、その境地まで行ってしまえば、実際はたいしたことじゃないんですけどね。ただ、やっぱり都会や組織の競争のなかにいると、そうは思えなくなるから、不安の種を探してしまうんでしょうね。
■みんな「行き詰まっている」
――不安の種を探すことが、安心につながったりもするんでしょうか。
それを一つひとつ克服していくことで、上昇しているというドーパミン的な快楽があるのかもしれないですね。
競争をかき立てることは、推進力にもなります。ただ、いいものを買って、もっと良くなろうと不安材料を探して競争することは、エネルギーに転化できるようで際限がないことだとも思います。もう少しプリミティブなところに向き合う時間が増えると、意外と今のままでも生きていけるなって思えるような気がします。
取材などで、いろんなメディアの方がここにいらっしゃるんです。同世代の方も多いのですが、みんな「行き詰まっている」と言うんです。
――どういう面でですか?
定時に仕事に行って、デスクに座って、パソコンをたたいて、給料日になったらちょっといい飯を食って。時間がないときはざっと風呂に入って、布団で興味があるんだかないんだかわからないYouTubeを見て眠くなるのを待つ。「やりたいことじゃないな」「旅行とかパーッと行きたいな」「でも今は忙しいから行けないな」という状態が続いていることをそう呼んでいるのかもしれません。
都市部の社会システムのなかで生きていると、雇用問題や株価の変動といった金銭面の不安が常につきまといます。そこでうまく順応できないと食べていくことができないから、そのルーティンから抜け出せなくなってしまう。