【全2回(前編/後編)の前編】
襲名という形で名跡を伝承する歌舞伎界では、古くからの「型」を重んじる。その精神は役者のみならず、裏方から興行主にまで浸透し、“独特な因習”を生んできた。それが伝統と呼ばれるうちはまだいいが、とんだ「型破り」となっては、騒動の火種になりかねないのだ。
【写真を見る】パワハラ疑惑が持ち上がっている音楽部部長の杵屋巳太郎
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「一世一代の襲名披露を成功させようと、彼らはスキャンダルが表沙汰にならないよう我慢してきた。興行主の松竹にも平身低頭、頭を下げてきたというのに、結局ハシゴを外された彼らが不憫でならないですよ」
と訴えるのは、歌舞伎界の内情に詳しい関係者だ。繰り返し口にした「彼ら」とは、「尾上菊五郎劇団音楽部」の部員のことを指す。
興業を巡っての“内紛劇”が
江戸時代から300年続く音羽屋の大名跡である「尾上菊五郎」。その襲名披露公演が、今月2日から東京・歌舞伎座で始まったが、晴れやかな舞台の陰では、興行を巡っての“内紛劇”が勃発しているのだ。
言うまでもなく、今回の襲名披露における主役は、尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎(47)である。
彼の長男・丑之助改め六代目尾上菊之助(11)も同時にお披露目となったが、八代目の父で、人間国宝の先代も「七代目」尾上菊五郎(82)として舞台に立つ。歌舞伎界でも異例の「二人菊五郎」誕生も話題となり、歌舞伎座には八代目菊五郎の母・富司純子(79)と、姉の寺島しのぶ(52)も駆け付けて華を添えたのである。
芸能一家に育った八代目菊五郎のお披露目は来年まで行われるが、その舞台を支えるのが、冒頭で触れた「音楽部」の面々である。
「部員への搾取やパワハラ」
尾上菊五郎劇団の歴史は古く、創設は76年前にさかのぼる。六代目菊五郎を支えた演者が集まったのが始まりで、長唄や三味線の演奏家たちが独立して「音楽部」を結成した。
そんな彼らと興行主の松竹が、折も折、深刻な対立状態にあるという。
「きっかけは、菊五郎劇団音楽部の部長が、部員への報酬の搾取やパワハラを行ったことに始まります」
と、先の関係者は明かす。
「歌舞伎の世界には、菊五郎劇団音楽部以外にも、それぞれの歌舞伎役者に専属する形で『社中』と呼ばれる専門団体がいくつもある。松竹から仕事を請け負う際は、団体の親方である頭(かしら)が、社中メンバー全員の報酬を一括で交渉しています」