世間を騒がせた、アドベンチャーワールドの不可解な「パンダ返還」発表。日本では今も各地で「わが町にパンダを」の動きがあるが、政治の道具であるパンダ、本当に必要ですか?
パンダはかわいい。でも、なぜこれほどまで人々から愛されるのか、中国人としては不思議でならない。動物園では常にスター、パンダ舎の前には長蛇の列ができる。2023年に東京の上野動物園からシャンシャンが中国に返還されると、シャンシャンに会いに行く中国旅行ツアーまで組まれた。
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そんな日本で4月下旬、和歌山県白浜町の「アドベンチャーワールド」が、飼育中のパンダ4頭を全て6月末に中国に返還すると発表した。これまで20頭を飼育してきた「日本一のパンダ動物園」だが、あと2カ月でパンダ0頭になる。ゴールデンウイーク直前の驚きのニュース。連休中はパンダファンが詰めかけ、テレビの取材に「東京から別れを言いに来た」と答えている人もいた。
いま日本でアドベンチャーワールドのほかにパンダを飼育しているのは、東京・上野動物園だけ。同園には2021年に生まれたシャオシャオとレイレイがいる。しかし日本生まれのこの2頭も、来年2月に中国に返還される。日本で生まれても「国籍」は中国。パンダは「レンタル動物」なのである。
このままいけば、日本は来年「ゼロパンダ時代」を迎える。でも、別にいいんじゃない?と私は思う。
「パンダ外交」という言葉があるぐらい、パンダはずっと政治の道具にされてきた。日本が今後も中国からパンダ外交され続けることに、私はどうにも賛同しかねる。
「国宝」であるはずのパンダに対する中国の扱い
パンダは中国の国宝だ。かつて絶滅の危機に瀕していたが、生育地の熱心な保全活動により、2016年には見事、絶滅危惧種のリストから外れた。以前は食べれば死刑とされていたし、今でも自国での人気に陰りは見られない。
にもかかわらずその国宝を、中国政府は1940年代から外交カードとして利用し続けてきた。1972年から始まった日本への贈与・貸与とて政治的な意図があってのことだ。果たしてこれが「国宝」に対する扱いだろうか。
パンダの贈与や貸与、契約の延長、返還はその時その時の対中関係に左右されるといわれる。
例えば、2023年秋に訪米した習近平(シー・チンピン)国家主席がアメリカへの新たな貸与に意欲を見せると、2024年には早速、20年以上のパンダ飼育実績があるにもかかわらず「ゼロパンダ」が5年間続いていたカリフォルニア州のサンディエゴ動物園に、2頭のパンダが貸与された(トランプ政権になる前でよかったね)。ちなみに2023年春には、テネシー州のメンフィス動物園にいるパンダが「激やせしている!」と中国のSNSで話題になり、危うく米中間の外交問題に発展しかけた。
一方、日本では近年、茨城県知事や仙台市長が「わが町にパンダを」と中国側に陳情していたが、政治的なコストをどう考えているのか。和歌山の4頭返還のニュースが出た後には、ちょうど訪中していた日中友好議員連盟会長の森山裕・自民党幹事長が、中国側に新たなパンダ貸与を要請している。
和歌山の返還は極めて突然の決定であり、真相は謎のままだ。そんななか、日中関係が良いとも言えないのに、新たな貸与など現実的ではないだろう。数億円の貸与料、いや、どのような条件をのまされることになるか分かったものではない。