ルーマニアで18日、やり直しの大統領選挙の決選投票が行われ、首都ブカレスト市長でリベラル・親欧州連合(EU)派のニクショル・ダン氏が勝利した。右派民族主義の強力な挑戦を退け、数カ月にわたる政治的混乱が収束した。
ルーマニアでは昨年、憲法裁判所が大統領選の第1回投票をロシアの干渉疑惑により無効とした。その後、今月初めに行われたやり直しの第1回投票では、選挙無効判断に反発する国民の支持を集めた、極右政党「ルーマニア人統一同盟(AUR)」を率いるジョルジェ・シミオン氏が首位となった。
しかし決選投票では、穏やかな口調で知られる数学者のダン氏が、国内で54%の票を得て勝利した。在外有権者の間では、シミオン氏が大きくリードしていた。
決選投票では1160万人以上のルーマニア国民が投票し、そのうち600万人以上がダン氏を支持した。
同日深夜に当選確実となったダン氏は、ブカレスト市庁舎の向かいにある公園で支持者たちと合流。「ルーマニアに多大な変化を望むルーマニア人のコミュニティーが勝利した」と強調し、「誰に投票したかに関係なく、共にルーマニアを築いていく必要がある」と呼びかけた。
大喜びする支持者らは、ダン氏の名前を連呼しながら歓声を上げ、「ロシアよ、忘れるな。ルーマニアはお前のものではない」と繰り返した。
一時は大群衆がダン氏に押し寄せる場面もあったが、数カ月にわたる政治的緊張の末に迎えたこの瞬間は、同氏とその支持者にとって大きな節目となった。
EUのほか北大西洋条約機構(NATO)加盟国でもあるルーマニアではこのことろ、主要政党に対する不満が拡大している。第1回投票でシミオン氏が首位となった後には、与党・社会民主党のイオン=マルチェル・チョラク首相が辞任を表明。また、同党が親欧州の連立政権から離脱すると発表し、政治的混乱がさらに深まった。
やり直し選挙の決選投票に向けてダン氏は、汚職との闘いと、北側の隣国ウクライナへの支援継続を掲げて選挙戦を展開した。一方、シミオン氏はEUを批判し、ウクライナへの支援削減を訴えた。
出口調査ではダン氏の勝利が予測されていたものの、重要な在外票が含まれていなかったため、シミオン氏は最後まで勝利の可能性に固執していた。
シミオン氏は当初、「自分が勝った。自分がルーマニアの新しい大統領であり、国民に権力を取り戻す」と、強く主張していた。
しかし、19日未明になってようやく、シミオン氏はフェイスブック上で敗北を認めた。その後、支持者によって計画されていた抗議行動は中止されたとみられている。
シミオン氏は選挙期間、昨年末の大統領選第1回投票で衝撃的な勝利を収めたカリン・ジョルジェスク氏と並んで活動していた。ジョルジェスク氏は、巨大なTikTokキャンペーンによって支持を集めていた。
しかし、この投票は不正行為およびロシアの干渉疑惑により無効とされ、ジョルジェスク氏は再出馬を禁じられた。ロシア政府は関与を否定している。
BBCのインタビューで、ジョルジェスク氏の操り人形ではないかと問われたシミオン氏は、「操り人形なのは選挙を無効にした連中だ。自分は国民の代表であり、国民はカリン・ジョルジェスクに投票した」と述べた。
「良い人が勝ったときだけ民主主義を称賛するのか? それは選択肢ではないと思う」とも、シミオン氏は語った。
さらに、自分は愛国者だと主張し、いわゆる主要メディアが、自分を親ロシア派やファシストだと中傷しているのだと非難した。
■在外ルーマニア人はシミオン氏を支持
シミオン氏が第1回投票で成功を収めた鍵は、イギリスを含む西ヨーロッパの国外在住者の間で圧倒的な支持を得たことにあった。
18日の決選投票でも支持者は再び大挙して投票に臨み、在外投票については、スペインで68.5%、イタリアで66.8%、ドイツで67%の支持を獲得したという部分的な集計結果が示された。イギリスでもシミオン氏が優勢だったが、有権者の中には、当局がジョルジェスク氏の立候補を認めていれば、そちらに投票していたと語る人もいた。
カタリナ・グランチャさん(37)は、「(ジョルジェスク氏のことは)何も知らなかったけれど、話を聞いてみたら、良いキリスト教徒だと分かった」と話した。
グランチャさんは、シミオン氏が勝利したらルーマニアに戻ると誓っていたという。グランチャさんの母マリアさんも、「自分も変化を求めて投票した。子どもたちはルーマニアで仕事が見つからず、国を出るしかなかった」と話した。
しかし、ダン氏の支持者は国内外で、より大勢が投票所に足を運んだ。隣国モルドヴァでは、87%のルーマニア人有権者が同氏を支持した。
モルドヴァとウクライナの首脳は、ダン氏の勝利に祝意を表した。
モルドヴァのマイア・サンドゥ大統領は、「モルドヴァとルーマニアは共に歩み、互いを支え合いながら、すべての市民のために平和で民主的、かつヨーロッパ的な未来を築いていく」と、述べた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「隣国として、そして友人として、ウクライナにとって、ルーマニアが信頼できるパートナーだというのは大事なことだ」と歓迎した。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長はソーシャルメディアで、大勢のルーマニア国民が投票に参加し、「強いヨーロッパの中で、開かれた繁栄するルーマニアという約束を選んだ」と述べた。
(英語記事 Liberal mayor Dan beats nationalist in tense race for Romanian presidency)
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