「劣化」。それはなんて残酷なワードであろうか。
ものすごく失礼な言葉にもかかわらず、SNSなどであまりにカジュアルに使われているものだから、何かにつけ「劣化したなぁ」と自他共に対して、ついそのワードを頭に浮かべてしまいがち。
映画『サブスタンス』(The Substance)は、この劣化の恐怖に襲われた中年女優(あえて女優と書く)の凄まじいまでの執念の物語である。
■社会派作品かと思いきや…
かつて、人気をほしいままにしていたスター「エリザベス・スパークル(デミ・ムーア)」だったが、50歳を機にプロデューサー「ハーヴェイ(デニス・クエイド)」から戦力外通告を受ける。よくいえば「卒業」。長く続いたレギュラー番組を降板させられることになったのだ。
その理由はビジュアルの「劣化」。プロデューサーははっきりとは言わないものの、そろそろ若い俳優とチェンジする時期だと言うのだから意図は明白だ。
絶望したエリザベスに、再びチャンスが訪れる。「サブスタンス」と呼ばれる再生医療によって、若さと美を取り戻すことが可能になったのだ。
細胞を若返らせる「サブスタンス」はエリザベスの肉体から若い「スー(マーガレット・クアリー)」を生み出す。エリザベスが若返るのではなく、もう1人若いスーが存在することになり、2人は7日ごとに入れ替わらないといけない。
スーはエリザベスの出ていた番組の後任オーディションを受けると合格、レギュラーが決まった。若くて美しいスーはたちまち人気を博し、仕事も遊興も思いのまま。ついつい遊びに耽ってエリザベスとの交代の期間を無視してしまう。するとエリザベスの体に異変が……。
あな、恐ろしや。ボディホラーのはじまりである。
情報を得ないまま映画を見ると、前半はルッキズムやエイジズムの社会派テーマを内包した、華やかなハリウッドのバックステージもの+近未来美容医療エンターテインメントかと思う。