天然資源を目当てにグリーンランド併合を主張するトランプだが、グリーンランドはアメリカに資源を渡す気はないようだ
鉱物、石油、天然ガスに富むデンマークの自治領、グリーンランド。トランプ米大統領が度々アメリカへの併合を一方的に要求していることで、国際的な注目を集めている。
しかし、グリーンランド側はアメリカへの併合を断固として拒否している。そして今月、グリーンランドはデンマーク本国やフランスと連携してトランプに冷や水を浴びせた。
本誌はホワイトハウスにコメントを求めている。
ロイターによると、グリーンランド政府は5月21日、フランスのジャン・ブール・グループと、デンマークおよびグリーンランドの不動産投資ファンドが支援する企業連合、グリーンランド・アノーソサイト・マイニング(GAM)に30年間の採掘許可を与えた。
この動きは、トランプのグリーンランド併合の野心を受けてのものだ。
今回採掘が許可されたのは、アノーソサイト。アルミニウム、マイクロシリカ、カルシウムを主成分とする白色の岩石だ。同岩石からは、環境への負荷を低く抑えたまま、アルミニウムやガラスを非常に細い繊維状にしたファイバーグラスを取り出すことができるが、GAMはグリーンランド西部で採掘したアノーソサイトをガラス繊維産業向けに輸出する計画を立てている。
この発表の際、デンマークのナーヤ・ナタニエルセン鉱物資源相は、航空機、車両、防衛用途のアルミニウム生産において、ボーキサイトに代替しうる環境に優しい選択肢となることを目指すとして、GAMによる資源開発に期待を示した。
アメリカによるグリーンランドへの投資の現状は?
一方、アメリカの動きは、EUおよびデンマークとの協力が円滑に進んでいるのとは対照的だという。ナタニエルセンによると、2025年になってアメリカの民間ビジネス代表団が島を訪れているが、アメリカ政府との正式な対話は始まっておらず、直接投資への関心も高まっていない。
「我々は多くの投資家を歓迎してきたが、アメリカによるグリーンランドのビジネス界への具体的な投資事例はまだ見たことがない」
デンマークのオールボー大学のイェスパー・ウィライング・ゼウテン准教授は本誌に対し、トランプの関心は即時の鉱山開発ではなく、将来の資源確保にあるとした。その上で、グリーンランドの法律では鉱山開発の許可は期限付きであり、その権利を維持するには現地で継続的かつ費用のかかる作業を行う必要があるため、長期的な投資対象としては適さないと指摘している。
もしグリーンランドがアメリカの法制度に基づいて統治されていれば、投資家は土地と地下資源の権利を購入し、氷が溶けるのを待てばよかっただろう。しかし、「グリーンランドはデンマーク政府に属するため、そうした状況とはほど遠い」とゼウテンは語った。
「環境負荷が極端に高くなく、集落の隣など、住民の生活に影響を及ぼさない限り、グリーンランドは鉱山開発の実現を強く望んでいる」
ただ、GAMに採掘許可が下りたとはいえ、必ずしも計画がうまくいくとは限らないようだ。
ゼウテンによると、GAMは採掘開始に向けてさらに多くの投資家を探す必要がある。しかし、投資家をうまく募れず、プロジェクトが失敗してしまったというケースも多いという。
GAMによる採掘プロジェクトの趨勢は現時点ではわからない。ただ、グリーンランドやデンマークがトランプの要求に屈する気はないことは間違いないようだ。
ブレンダン・コール