【ソウル=石川有紀】韓国大統領選で最有力候補の革新系野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)氏は、過去に「日本は敵性国家」と安全保障協力への拒否感を示し、慰安婦問題で「日本の真摯(しんし)な謝罪と反省」を求めるなど強硬な対日姿勢で知られてきた。今回の選挙戦で李氏は一転、日米韓関係を重視すると表明し「日本はパートナー」と訴えるが、当選した場合に新政権の外交で言行一致するかには慎重な見方がある。
■外交と経済切り分け
選挙戦最終盤の26日に李氏が発表した外交・安保公約は、「国益中心の実用外交」を掲げ、韓米同盟の発展や日米韓協力を重視する点で保守政権に近い内容だ。李氏は同日の遊説で、日韓関係について「歴史・領土問題には原則通りに対応せねばならない」と述べた上で、社会・文化・経済分野の協力強化は「未来志向的にアプローチする」と切り分ける方針を語った。
李氏陣営で外交安保政策を担当する魏聖洛(ウィ・ソンラク)同党議員は同日の会見で、「韓米日の安保協力を軸として、中国やロシアとの関係を適切に管理する」と強調。保守派が選挙戦で李氏の過去の発言を追及する中、〝反日・反米・親中〟のレッテルを払拭する狙いがある。
今回、李氏の選挙陣営には、魏氏や趙顯(チョ・ヒョン)氏ら高官級を含む外務省出身者が「歴代最大規模」(朝鮮日報)で加わったことが、現実路線の外交・安保政策に反映されたとみられている。
■「外交哲学見えぬ」
ただ、同じ革新系の文在寅(ムン・ジェイン)政権(2017~22年)も歴史や政治問題と、経済など民間交流を切り分ける「ツートラック(2路線)」戦略を打ち出した。だが、15年の慰安婦合意を事実上白紙化し、いわゆる徴用工訴訟を放置するなどした結果、日韓政府間の対立とともに相互の国民感情も悪化し、両国関係は1965年の国交正常化以来「最悪」の状態に陥った経緯がある。
韓国のシンクタンク、峨山(アサン)政策研究院で日韓関係を研究する崔恩美(チェ・ウンミ)研究委員は、学者中心の過去の政権と異なり、「李氏陣営は外交官ら実務家が中心となっているのが特徴で、党内の対日強硬派の主張を封じ込めているようだ」と注目する。ただ、公約には本来は相いれない保守・革新の外交方針がともに盛り込まれており、崔氏は「一貫した外交の哲学が見えない」とも指摘する。李氏の過去の発言とのギャップもあり、「外交で重要なのは、信頼の蓄積だ。新たな対立が起きた場合の具体的な行動を見なければ、韓日協力が進むかは判断できない」と慎重な見方を示す。