多感な中高生の多くは、超古代文明・オカルト・宇宙人などをミックスしたトンデモコンテンツにとりつかれがちだ。そんな彼ら・彼女には、本職の考古学者の姿を見てもらうのが一番だろう。地道にコツコツと遺跡を掘り続け、歴史教科書の記述を変えさせるほどの発見をものにした筆者が、本気の仕事ぶりを語る。※本稿は、青山和夫、大城道則、角道亮介『考古学者だけど、発掘が出来ません。多忙すぎる日常』(ポプラ社)のうち、青山和夫による執筆パートの一部を抜粋・編集したものです。
● われらが京都よりも歴史が長い!? 密林の中に残る巨大都市遺跡
セイバル遺跡は、グアテマラにあるマヤ文明の大都市遺跡である(写真1)。そこには、先古典期中期(紀元前1000〜前350年)から後古典期前期(紀元後1000〜1200年)までの2000年以上にもわたり、例外的に長い人間の居住があった。セイバルは、マヤ文明の起源から王権や都市の盛衰などの社会変化を2000年以上にわたって通時的に研究できる、考古学者が一生に一度は調査をしたいマヤ文明を代表するチャンピオン級の遺跡だ。こうしたマヤ文明の起源から2000年を超える長期間の社会変化は、居住期間が短い遺跡や後世の遺跡では検証できない。
セイバルは、パシオン川という大河から100メートルほど高い丘陵の上という、天然の要害に築かれ、国立考古学遺跡公園に指定されている。マヤ低地南部の多くの都市が9世紀に衰退する中、セイバルはパシオン川流域最大の都市として繁栄を極めた。保存状態が良好な50を超える石碑には、王の図像やマヤ文字の碑文が緻密(ちみつ)に彫刻されている(写真2)。
セイバル遺跡の熱帯雨林の密林では、ホエザルの怒鳴り声が響き渡る。さらに、カラフルで大きなくちばしが特徴のオオハシ(トゥカン)やハチドリをはじめ熱帯の美しい鳥が飛び交う。セイバル遺跡で見かける鳥の中で、ハチドリは最も小さい。体長は10センチメートルほどで、金属光沢に富む青、緑、紫、赤、橙色などの美しい色で輝いている。いつ見ても、「なんて可憐なんだろう」と見とれてしまう。飛び方が特徴的で羽ばたきが非常に早く、前に飛行するだけでなく、ヘリコプターのように空中の一点に止まるように飛ぶことも、飛びながら後退することも自由自在だ。
セイバル遺跡が立地する丘陵のすぐ下にはパシオン川が流れている。そして、マヤ人が丘陵上に数々の貯水池を配備したセイバル遺跡は、「蚊の地獄」だ。早朝はそうでもないが、午前10時頃になると黒い浮遊物体、つまり夥しい数の蚊の大群が総攻撃してくる。マラリアの予防薬は、欠かさずに飲む必要がある。日本製の携帯用蚊取り器はあまり役に立たないので、発掘現場ではコフネヤシの実をブリキのバケツの中で燃やす。