「私も犯罪者になる可能性があった」そう語るサヘル・ローズさんが「誰よりも救われた」という本の中身


【写真】ノンフィクション作家の黒川祥子さん

■この母と娘の人生を映画にしたい

 【サヘル】すごく失礼なこと言うかもしれないんですけど、私は、この本を読んだときに、映画化したいと思ったんです。これは映画になるべきだなって。この母と娘2人の人生を……悪い見世物にしたいわけではなくて、読みながら絵が見えてきたんですよ。その現状、その状態が全部見えてきて、言葉がちゃんと立体的に絵になっている。たしかに本を読んでいるんだけれど、映像を見ているみたいだと思ったんです。

 【黒川】本当ですか。それはとても光栄です。

 【サヘル】もしかしたら自分と近い部分があったからかもしれないけれど、でもすごく言葉が、読んでいる読者との距離感があまりにも近くて。誰かが書いた活字を読んでいるのではなく感じます。それだけ長い間、一緒の時間を過ごしていらっしゃるから、黒川さんの想いが、みんなの中に入っているんですよ。むしろ、沙織さんや夢ちゃんの方が黒川さんの中に入って、黒川さんの体を借りて書いているのかもしれない。3人のそれぞれの心が分断されていないのがすごかった。つながっている1つの魂だったんですよね。

 【黒川】本当に、夢ちゃん、沙織さんがちゃんとつながってほしいという願いを込めて書いた本でもあるので、そう言っていただけるのは、とてもありがたい思いです。

 【サヘル】こちらは映像がすごい勢いで、頭の中の眼球に絵が映し出されたかのように見えてきたんです。本当にありがとうございます。この本を読んで、誰よりも救われた読者が私だと思っています。たぶん、「救われた読者」の第1位だと思います。

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『母と娘。それでも生きることにした』

生きていることが不思議なほどの過酷な日々を過ごす母と娘は、それでも生きることを選んだ――。

母・沙織(仮名)は生まれてすぐ、京都府の山奥にあった「里子村」のお寺に兄とともに預けられ、過酷な生活を強いられる。小学校を卒業する頃に、突然父親が現れ、先に引き取られた兄とともに家族4人の新生活が始まるが、それは、本当の地獄だった。継母からは言葉の暴力、実の父親からは性的暴力を含めた壮絶な虐待を受ける。沙織は、20代で死ぬことを人生の目標にした。その後、結婚して2児を授かるが、娘、息子ともに視力に障害を持って生まれてくる。娘・夢(仮名)はとても育てにくい子どもで、沙織から夢に対する殴る蹴るの虐待が、就学前まで続く。

娘・夢には母・沙織から暴力を受けた記憶がない。だが、10代になってからも続いていたのは、「あんたは、ママをいじめるために生まれてきた悪魔なの」という言葉の暴力。「ママの中に、何人かの人格がいる」と母から解離性人格障害の症状を感じとる。突然怒りのスイッチが入る。それがいつ起きるかわからない。「家の中で安心できるのは、トイレだけ」だったという。中学2年生の頃、父の不倫が原因で、両親が離婚。荒れ狂う母の姿を傍らに、夢の「死にたい病」が始まる――。

互いに行き違う母と娘の、それぞれの心の叫びをモノローグの形で綴るノンフィクション。
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