数十年にわたり、米国は外国の学生の間で最も魅力的な留学先と考えられてきた。世界的に評価の高い大学、卒業後の就労プログラム、研究機会などに惹かれ、米国務省によると2023〜24年度には過去最多の112万人あまりの留学生が米国で学び、それによって米国には500億ドル(現在の為替レートで約7兆2000億円)超の経済効果がもたらされた。
だが、ドナルド・トランプ政権のビザ(査証)政策をめぐるここ数週間の混乱や、ハーバード大学の留学生受け入れ資格を取り消した5月22日の措置を受けて、留学先としての米国の魅力は揺らいでいる。政権による最新の措置に対しては連邦地裁が一時差し止め命令を出したものの、米国の高等教育の不安定な状況は、今後どのような結果になろうとも、それだけで外国の学生を遠ざけるのに十分かもしれない。
ハーバード大学をはじめ、米国のいくつかの研究大学は巨額の研究資金も失っており、これは留学生にとって研究機会が減ることを意味する。さらに、米国の大学は授業料も高騰していて、少なくとも1校では寮費や食費、教科書代などすべての経費を含めると年間の学業コストが10万ドル(約1440万円)を超える。大半の留学生は正規の学費を支払うことになるので、こうしたコストの高さも、留学先として米国を選ぶのは賢明なのか疑問を抱かせる要因になる。
■英国やカナダ、豪州も留学生を制限
海外での学位取得をあきらめ、国内の大学に進学する選択肢を選ぶ学生が今後は増えるかもしれない。とはいえ、国際教育者協会(NAFSA)によれば、インドのように、高等教育の需要に対して大学の定員が足りていない国もある。インドでは大学の数は増えているものの、教育の質には相変わらずばらつきがある。ほかの国でも、大学の質が低く、今日の労働市場で競い合っていくのに必要なスキルを身につけた卒業生を生み出せていないことがある。
外国の学生は、英国やカナダ、オーストラリアといった米国以外の英語圏の国を留学先に選ぶ可能性もある。たしかにこれらの国々は、世界的に認められている学位プログラムや、卒業後の就労ルートを提供している。しかし、これらの国々でも近年、大勢の留学生が流入した結果、移入者に対する国民感情が悪化し、入国管理政策が引き締められているのが実情だ。