NHK連続テレビ小説「あんぱん」(月~土曜前8・00)は、国民的アニメ「アンパンマン」の生みの親である漫画家やなせたかし氏と妻・暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜いた柳井夫婦の軌跡を描いています。5日に放送された第115話では、大きな注目を集める展開が描かれました。それは、阿部サダヲ演じる屋村草吉が21年ぶりに柳井家を訪れ、戦争が人々の心に残した深い傷と、そこから生まれる希望の兆しが鮮やかに描かれた場面です。
本作は「ドクターX~外科医・大門未知子~」シリーズで知られる中園ミホ氏が脚本を手掛け、主人公の柳井のぶ(今田美桜)と夫の嵩(北村匠海)が「逆転しない正義」にたどり着くまでの道のりを紡ぎます。第115話では、長らく行方をくらましていた草吉が突然の帰還を果たし、過去と現在が交錯する中で、戦争の悲劇とその後の人々の心の葛藤が浮き彫りになりました。
21年ぶりの再会:草吉の帰還と朝田家の反応
第115話の冒頭、朝田蘭子(河合優実)が屋村草吉(阿部サダヲ)を柳井家へ連れてくる場面から物語は大きく動き出します。柳井のぶ(今田美桜)たちは、21年ぶりの突然の再会に驚きと喜びを隠せません。草吉は八木信之介(妻夫木聡)の会社にあんぱん100個を届けた際、蘭子と偶然再会。「逃がさんで。ここで会うたが100年目やき」と食い下がる蘭子に、草吉は「よう、チビ」と懐かしそうに応じました。
その知らせを聞いたのぶは驚き、朝田羽多子(江口のりこ)はあまりの衝撃に腰を抜かすほどでした。羽多子は「便りばあ、よこしなさい!」と長年の音信不通を責め、辛島メイコ(原菜乃華)も駆けつけ、朝田家の女性陣は草吉を囲みます。草吉は相変わらずの皮肉屋で「しかしあれだなぁ、おまえら全員、老けたな」と口を滑らせ、周囲を呆れさせますが、すぐさま「ごめんなさい」と4連発で謝罪する姿に、視聴者からは「阿部サダヲ劇場」「ヤムさん、それ女性に言うたらアカンw」といったSNSのコメントが相次ぎ、笑いを誘いました。
草吉はのぶと嵩の結婚に驚きつつも、「よかったな」「チビ、俺はおまえが一番心配だったんだ。世の中がひっくり返った後、愛国の鑑はどうやって生きていくのか」と、のぶの幸せを心から願う言葉をかけました。「絶望の隣は、まんざら捨てたもんじゃなかったってことか」という草吉の言葉は、彼の内なる感情をうかがわせる一幕でした。
阿部サダヲ演じる草吉と今田美桜演じるのぶが21年ぶりに再会し、感慨深い表情を見せる
戦争の傷跡:草吉の告白と心の棘
再会の喜びも束の間、草吉はのぶたちに自身の戦争体験を重い口調で告白しました。羽多子は、草吉を家族だと思っていたにもかかわらず、彼が自身のことを何も話してくれなかったことを寂しそうに語り、「心に垣根を作っちょったがですね」と問いかけます。それに対し草吉は、「ごめんよ。御免与町だけに」「俺は、自分の名前も何もかも捨てたんだ」と応じました。
彼は「何とか命拾いして、日本に戻ってきた時、決めたんだ。国だの、戦争だのって、そんなもんに、二度と振り回されるもんかって。そっからは、ずっと根なし草さ」と、戦争によってすべてを失い、自らの存在すら否定してきた壮絶な過去を明かします。この告白は、戦争がいかに個人の尊厳やアイデンティティを奪うかを痛切に物語っていました。のぶは、嵩に「ヤムおんちゃんの心には、まだ…トゲが刺さっちゅうがや」と語り、草吉の抱える深い心の傷を表現しました。この描写は、多くの視聴者に戦争の影が長く尾を引くことを再認識させました。
希望への探求:あんぱんと「おじさんアンパンマン」の誕生
1カ月後の8月15日、終戦記念日。嵩は手嶌治虫(眞栄田郷敦)の仕事場を訪れていました。戦争の記憶が色濃く残るこの日、嵩はのぶに「僕らは…無力だ。でも、何かせずにはいられない気持ちなんだ」と、戦争で傷ついた人々への思いを語ります。千尋を失った母、豪さんを失った蘭子、家族を失った八木、そして心のトゲを抱える草吉。「ヤムさんや、みんなの心のトゲを、僕は抜いてあげたいんだ。そのために、僕らに何ができるんだろう」と、嵩は苦悩しながらも、人々の痛みに寄り添いたいと願います。
のぶもまた、その思いを共有し、「それをずっと考えゆうがよ。どこの国の人でも、どんなことが起きても、ひっくり返らん確かなこと。みんなが喜ぶことって、何ながやろうか」と、普遍的な「喜び」を追求する大切さを問いかけます。
柳井嵩が引き出しから「おじさんアンパンマン」の絵を取り出し、のぶと未来への希望を語り合う
机の上には一つ、「あんぱん」が置かれていました。そして、嵩は引き出しから「おじさんアンパンマン」の絵を取り出します。このシーンは、戦争の絶望から立ち上がり、「みんなが喜ぶこと」を模索する柳井夫婦の決意と、やがて国民的ヒーローとなるアンパンマン誕生への伏線として描かれます。語り(林田理沙アナウンサー)の「2人の思いは、実を結ぶのでしょうか?」という問いかけは、今後の物語への期待感を高めました。
第80話(1946年)から第115話(1967年)までの21年という時間の流れが、登場人物たちの人生にどれほどの影響を与えたかを如実に示す回となりました。SNS上では「たまるかー!の最上級『たまー!』」「羽多子さんのツッコミはヤムおじに育てられた感じ」など、シリアスな中に散りばめられたユーモラスなやり取りにも視聴者から多くの反響が寄せられ、その話題性を改めて証明しました。
草吉の帰還と告白、そして柳井夫婦の未来への模索は、単なる物語の展開に留まらず、戦争の記憶と向き合い、希望を見出すことの重要性を私たちに問いかけています。あんぱんと「おじさんアンパンマン」の絵が象徴するように、困難な時代の中でも「みんなが喜ぶこと」を追求する彼らの姿勢は、今後の物語においてどのような「逆転しない正義」へと繋がっていくのか、注目が集まります。