横浜市長選挙を巡り、市議会で最大会派である自民党(86議席中32議席)が、独自候補の擁立を見送る方針を固めた。党市連は候補者選考委員会を設置し協議を重ねてきたが、適切な候補者の擁立は難航。地元経済界が現職市長の支援で結束し、「オール横浜」体制を築く動きを見せる中で、党内からは「擁立断念は時間の問題だった」との声が上がっている。
難航した候補者選考と経済界の動き
前回の横浜市長選(4年前)では、山下ふ頭へのカジノを含む統合型リゾート(IR)誘致の是非が最大の争点となり、自民党は「保守分裂」という厳しい状況に追い込まれた。当時の菅義偉首相に近い小此木八郎元国家公安委員長がIR誘致中止を訴えた一方、自民党の一部は誘致推進を掲げる現職(当時)の林文子氏を支援した。このため、支援体制を一本化できず「自主投票」を選択せざるを得なくなり、結果として「共倒れという最悪の結果」(市議)に繋がった経緯がある。
今回の選挙では、前回の雪辱を期すべく、自民党は知名度の高い独自候補の擁立を模索した。しかし、党派閥の政治資金パーティーを巡る問題が逆風となる中、有力な候補者を見出すことは困難を極めた。自民党の方針が定まらない中、現職支援の動きを先行させたのは経済界だった。
昨年9月には、横浜商工会議所の首脳らが発起人となり、山中竹春市長の後援会設立に向けた準備会合を実施。11月には政治資金パーティーを開催し、後援会を正式に発足させた。「ハマのドン」として知られる横浜港運協会の藤木幸夫会長は、パーティーに集まった約1千人の参加者に対し、「この男(山中市長)がいなければ横浜はおかしくなる」と述べ、山中市長への支持を強く訴えかけた。
横浜市長選を巡り、経済界との会合後、取材に応じる山中竹春氏
経済界と自民党は歴史的に深いつながりがあるだけに、前回の保守分裂選挙について、地元有力企業のトップは「我々の間にもしこりを残した」と当時を振り返る。しかし、令和9年には国際園芸博覧会という歴史的な大型イベントの開催を控えており、「行政と経済界がばらばらになっているのは好ましくないという共通認識が広がった」(同)ことが、今回の経済界が現職支援に動いた背景にあると説明した。
自民党市連の内部事情と今後の対応
一方、自民党市連の候補者選考委員会は、今年に入ってから、自薦・他薦で名前が挙がった候補者4人と面談を行った。しかし、ある市議は「全員が結束して推薦できる『勝てる候補者』は見つからなかった」と明かす。
先月には、市連幹部と山中市長が意見交換を行った。選挙戦での支援も視野に入れて検討を進める姿勢を示しているが、市議の間では現職支援に対する根強い反発の声も聞かれる。市連会長の佐藤茂市議は5日の本会議終了後、報道陣からの取材に対し、「これからの検討だ。(市連として合意形成できるかは)まだ分からない状況だ」と述べ、党内での議論が続いていることを示唆した。
結論
横浜市長選を巡る自民党の独自候補擁立断念は、過去の選挙での苦い経験、有力候補者発掘の難航、そして現職市長を支援する経済界の動きが複合的に影響した結果と言える。特に、国際園芸博覧会開催を控えた経済界の「オール横浜」での連携を望む声は、自民党の判断に少なからず影響を与えたと見られる。今後、自民党市連が現職支援に回るのか、あるいは自主投票となるのか、党内の意見集約が注目される。
参考情報:
- 本記事は、複数の関係者への取材に基づいています。