トランプ氏とイーロン・マスク氏の対立激化:エプスタイン、大型法案巡り非難合戦 – 政府契約打ち切り示唆も

これまで良好な関係を築いてきたアメリカのドナルド・トランプ前大統領と実業家イーロン・マスク氏の間で、激しい対立が巻き起こっています。特に、性的人身売買に関与したとされる故ジェフリー・エプスタイン氏の関連ファイルに関するマスク氏の投稿が、この対立を一層深めています。政権時代にはマスク氏が政府効率化省(DOGE)のトップを務めるなど協力関係にあった両者ですが、最近の共和党が推進する大型法案を巡る意見の対立が、事態をエスカレートさせる引き金となりました。

トランプ政権下で政府効率化省(DOGE)トップを務めたイーロン・マスク氏に関するホワイトハウスでの会見写真トランプ政権下で政府効率化省(DOGE)トップを務めたイーロン・マスク氏に関するホワイトハウスでの会見写真

エプスタイン・ファイル疑惑:マスク氏が投下した「大きな爆弾」

マスク氏は6月6日、自身のX(旧ツイッター)アカウントに衝撃的な投稿を行いました。「本物の大きな爆弾を落とす時が来た。エプスタインのファイルにはトランプが含まれている。それが、ファイルが公開されていない本当の理由だ」と主張し、「よい一日を、DJT(ドナルド・J・トランプ)!」と付け加えました。

ジェフリー・エプスタイン氏は2019年に性的人身売買の容疑で起訴され、裁判を待つ間に刑務所で死亡しました。2024年2月、ホワイトハウスはこの事件に関連する大量の文書を公開すると発表しましたが、実際に公開された内容のほとんどは、すでに広く知られている情報でした。マスク氏は、このファイルの完全な公開が進まないのは、トランプ氏の名前が含まれているためだと示唆しています。

トランプ氏が過去にエプスタイン氏と近い関係にあり、同じプライベートジェット機に搭乗していた記録が存在すると報じられたことはあります。しかし、マスク氏が今回「大きな爆弾」と表現した情報が、実際にどれほどの影響を持つかは現時点では不明です。それでも、このエプスタイン・ファイルに関するマスク氏の投稿は、トランプ氏との対立が新たな段階に入ったことを明確に示しています。

政策批判が非難合戦へ:大型法案と契約問題

両者の対立が激化した背景には、最近の政策論争があります。マスク氏は第2次トランプ政権下で政府効率化省(DOGE)のトップに任命され、連邦政府の予算や人員削減に尽力するなど、一時は良好な協力関係にあるように見えました。

しかし、共和党が推進する「ビッグ・ビューティフル法案」に対するマスク氏の強い批判が、関係の急速な悪化を招きました。この法案は、低所得者向け医療保険であるメディケイドを含む社会保障プログラムの削減と、富裕層への減税期間延長を組み合わせた内容で、民主党議員からも批判を浴びています。

議会予算局(CBO)の分析によると、この法案は4兆ドルを超える減税と新規歳出を伴いますが、社会保障プログラムの削減額は2兆ドル未満にとどまるため、結果として2.4兆ドルの財政赤字を生み出すと予測されています。さらに、利払いを含めると赤字額は拡大し、一時的な措置とされる減税が恒久化される可能性も考慮すると、将来的な財政負担はさらに増加すると見られています。

マスク氏は、このような財政悪化を招く法案に強く反対の姿勢を示しました。彼はXに、「赤字を大幅に増やし、債務上限を5兆ドルも引き上げるような法案ではなく、新しい歳出法案を出すべきだ」と投稿し、法案を皮肉を込めて「ビッグ・アグリー法案(大きく醜い法案)」と呼び、「2.5兆ドルの財政赤字を生み出す」と厳しく批判しました。

マスク氏のこうした言動に憤慨したトランプ氏は、6月6日、自身のソーシャルメディア「Truth Social」で反撃に出ました。「予算を節約する一番簡単な方法、何十億ドルも節約できる方法は、イーロンへの政府の補助金と契約を打ち切ることだ。バイデンがそうしないのが、いつも不思議だったよ!」と投稿し、マスク氏がCEOを務めるスペースXなど、彼が関わる企業への政府契約を打ち切る可能性を示唆しました。

これに対し、マスク氏はXで「どうぞやってくださいよ。楽しませてくださいよ…」と応じ、トランプ氏がエプスタイン氏のファイルを隠蔽していると改めて非難しました。エプスタイン・ファイルに関する発言については、「将来のためにこの投稿をブックマークした方がいい。真実はいずれ明らかになる」とも付け加え、自身の主張の正当性を強調しました。

さらに、政府契約の打ち切り示唆を受けて、マスク氏は「スペースXはドラゴン宇宙船の使用を終了する作業を直ちに開始する」と書き込みました。また、「トランプは弾劾され、代わりにJD・ヴァンスが就任すべきだ」という別のユーザーの投稿に対して「そう思う」とコメントするなど、トランプ氏への強い不信感を示しました。

一方、トランプ氏は再びマスク氏を非難し、「イーロンが私に反旗を翻すのは構わないが、数カ月前にやるべきだった」と述べ、自身の推進する法案を擁護しました。

トランプ氏とマスク氏の対立激化のニュースは、市場にも影響を与えました。マスク氏が率いる電気自動車メーカーであるテスラの株価は、一時的に急落する事態となりました。

ホワイトハウス声明と過去の否定

このトランプ氏とマスク氏の公然たる対立について、ホワイトハウスはコメントを発表しています。ハフポストUS版への声明の中で、キャロライン・レビット報道官はマスク氏の言動について「残念だ」と述べました。

声明では、「イーロンに関する残念な出来事です。彼は『ワン・ビッグ・ビューティフル法案』に自分が望んでいた政策が含まれていないことに不満を抱いています。大統領はこの歴史的な法案を成立させ、我が国を再び偉大にすることに全力を注いでいます」として、マスク氏の批判が法案の内容への不満に基づいているとの見方を示しました。

なお、トランプ氏は2024年に入ってからも、エプスタイン氏との関係について改めて否定しています。彼はTruth Socialに、「私はエプスタインの飛行機にも乗ったことはないし、彼の“くだらない”島にも行ったことはない」と投稿し、自身とエプスタイン氏の親密な関係性に関する疑惑を否定する姿勢を崩していません。

二人の有力者間の対立は、今後も様々な波紋を広げる可能性があり、その動向が注目されます。

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