日本郵便、運送事業許可取り消しへ 国交省が方針決定、点呼不備で

年間約126億通の郵便物を届け、10億個あまりの『ゆうパック』を配達する日本の物流インフラを担う日本郵便に対し、国土交通省が車両による一般貨物の運送事業許可を取り消す方針を固めました。その理由として、全国の営業所で運転手の飲酒や体調確認を行う「点呼」が適切に行われていなかったことが挙げられています。この処分により、日本郵便は保有する約2500台のトラックやワンボックスカーなどを5年間にわたり運送事業で使用できなくなります。大手運送事業者に対する処分としては極めて異例の事態です。

法令では、貨物運送事業者は輸送の安全確保のため、運転手の飲酒の有無、睡眠、疲労などの体調について、原則として業務前と業務後に対面で点呼を行うことが義務付けられています。しかし、日本郵便では全国の営業所でこの法定点呼が適切に実施されていない実態が明らかになりました。全国3188の郵便局を対象とした内部調査の結果、全体の75%にあたる2391局で点呼に関する何らかの不備が確認されたのです。

日本郵便の千田哲也社長は今年4月、この点呼不備について「全国的に発生しており、個別の郵便局で行った問題ではなく、会社全体の構造的な問題ということが明確になっている」と認め、「かなり昔から不徹底が行われていたのではないか」との認識を示しました。点呼の不備が常態化していた可能性が指摘されています。

不適切な点呼の実態を示す具体的な事例も相次いで発覚しています。昨年5月には、神奈川県の戸塚郵便局の配達員が業務中に白ワインを飲み、酩酊状態で配達していた問題が発生。さらに、今年4月下旬には、東京・芝郵便局に勤務する社員が軽自動車での配送中に飲酒運転していたことが明らかになりました。この社員は点呼を行った人物に対し「風邪薬を飲んだため、アルコールが検知された」と虚偽の説明をし、集配業務を続けていたといいます。日本郵便は、今年4月だけで全国であわせて20件の飲酒関連事案があったことも公表しています。これには、前日の飲酒によるアルコール残存で、道路交通法上の飲酒運転にはあたらない程度のものも含まれていますが、安全確認が不十分であったことを示しています。日本郵便の調査結果報告書には「点呼は面倒だから管理者がいるときのみやっていた」といった実態をうかがわせる記載も見られました。

こうした状況を受け、日本郵便は再発防止策として、4月以降は点呼を局内の防犯カメラに映る位置で必ず対面で実施し、その映像を証拠として残し、確認できるようにしていると説明しました。しかし、国土交通省は4月、一連の不適切な点呼が相次いだことを重く見て特別監査を実施。その結果、監査対象となった119カ所の事業所のうち、82カ所で点呼に関する記載が事実と異なるなど、虚偽報告の疑いが強い不備が見つかりました。これらの状況を踏まえ、国交省は運送事業許可の取り消し処分を決定した模様で、今月中にも正式に認可が取り消される見通しです。

日本郵便の千田哲也社長(当時)が点呼不備問題について説明する記者会見の様子日本郵便の千田哲也社長(当時)が点呼不備問題について説明する記者会見の様子

今回の許可取り消しによる日本郵便の事業への影響は避けられません。国内の宅配便取扱個数は年間約50億個に上りますが、『ゆうパック』の取扱個数はヤマト運輸、佐川急便に次ぐ3番目で、市場全体の約2割のシェアを占めています。使用できなくなる2500台の車両は、全国に13カ所ある中継地点に各郵便局から集めた荷物を輸送する役割や、中継地点どうしの荷物の長距離輸送に主に使用されています。これらの基幹輸送を自社車両で行えなくなるため、日本郵便は許可取り消しとなった場合、同業他社への輸送委託なども含めて代替策を検討している状況です。

日本郵便は今回の事態について、「郵便・物流事業という社会的インフラを担っている運送事業者として、その存立にもかかわる重大な事案であると受け止めている」とのコメントを発表しました。

一方、日本郵便の社内からは、過酷な労働環境や点呼の実態について生の声が聞かれます。ある社員は、アルコールチェックの感度が高く、前日の飲酒でも反応するため対策していることに触れつつ、「業務自体が非常にひっ迫していて、超過勤務はするな、誤配はするな、交通事故はするなと言われているので、気持ちとしても焦る。法律自体に怒っているのではなく、会社の対応というか、現場に丸投げ」と、現場への負担が大きい現状を訴えました。また、去年まで関東地方の郵便局に勤務していた元社員は「基本的には(点呼をする)時間がないということ。(点呼が行われていないのは)正直、日常茶飯事だった」と語り、慢性的な人手不足の中で点呼がなおざりにされてきた実態を証言しています。

今回の日本郵便に対する異例の厳しい処分は、同社の安全管理体制、特に基本的な点呼業務の不備が看過できないレベルに達していたことを示しています。社会的インフラとしての信頼性が問われる中、抜本的な組織改革と現場の労働環境改善が急務となります。

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