140年前に沈んだ19世紀の商船「SSナンテス号」がこのほど、英国沖の海底で「時が止まったかのような」驚くべき状態で発見された。SSナンテス号は1888年11月、コーンウォール沖で沈没し、23人の乗組員が命を落とした悲劇の船だが、その正確な沈没場所は長らく不明のままだった。この歴史的な発見は、ダイバーの探査によって偶然にもたらされた。
発見のきっかけ
素晴らしい発見の端緒となったのは、53歳のベテランダイバー、ドム・ロビンソン氏が海底の遺物の中から偶然見つけた食器の破片だった。ロビンソン氏がこの破片を陸に持ち帰り詳しく調べたところ、その表面には特定可能な海運会社の印が刻印されているのを発見。この印が、長年行方不明となっていた沈没船を特定する重要な手掛かりとなった。
ドム・ロビンソン氏と発見されたSSナンテス号の食器破片
SSナンテス号の歴史と悲劇
プリマス大学の歴史学教授で海事史を専門とするハリー・ベネット氏によると、沈没時、SSナンテス号は建造からわずか14年しか経っていなかった比較的新しい船だった。ベネット氏はCNNの取材に対し、SSナンテス号のように存在は知られているものの、正確な沈没位置が不明なまま長い年月が経過した船舶は他にも複数存在すると述べた。
衝突と沈没の詳細
SSナンテス号の悲劇は、航海条件が非常に悪い中でドイツの帆船と衝突したことにより始まった。この衝突で船体の側面に大きな穴が開き、致命的な損傷を負った。乗組員たちはその後の数時間、マットレスなどを駆使して懸命に穴を塞ごうと試みたが、浸水を止めることは叶わなかった。ベネット氏の説明によれば、SSナンテス号は非常に速い速度で海中に没していったという。
救助活動と生存者の数
帆船との衝突はSSナンテス号の救命ボートも損傷させたため、多くの乗組員は船から避難することが不可能になった。この沈没事故で、わずか3人の乗組員だけが生存した。ベネット氏によると、衝突したドイツの帆船も最終的には沈没したが、幸運にも救命ボートは無事だったため、その大半の乗組員は生き延びることができた。SSナンテス号の生存者3人のうち2人は、このドイツ船の救命ボートによって救助されたという。
海底の「タイムカプセル」として
ロビンソン氏がCNNに明らかにしたところでは、SSナンテス号の船体残骸は昨年秋に発見された。沈没現場は、英国のプリマスから南東へ約48キロ離れた英仏海峡の、水深約75メートルの海底だった。発見された残骸の構造や寸法、そして先述の食器の破片などの物的証拠から、沈没船がSSナンテス号であると最終的に確認された。
英仏海峡の水深75mで発見されたSSナンテス号の船体
ベネット教授は、全ての沈没船はまさに「タイムカプセル」のような存在であり、沈没した時点から時間が止まったかのような状態を保つと語る。特に今回発見された食器の破片については、乗組員が最後の食事に使用したかもしれないと考えると、歴史の重みを感じずにはいられないと付け加えた。この発見は、失われた歴史の一片を現代に伝える貴重な機会となっている。
SSナンテス号沈没現場から回収された遺物
このSSナンテス号の発見は、140年前の悲劇を現代に蘇らせるとともに、深海底に眠る歴史の証人がいかに保存されているかを示す事例となった。ダイバーによる偶然の発見と専門家による検証が結びつき、長年の謎が解明された。海底に静かに存在する船体や遺物は、「時が止まった」状態で当時の出来事を物語り続けている。