ナイジェリアでは今なお、イスラム過激派ボコ・ハラムの脅威が続いています。会社員で映画監督の石田結愛さん(26)は昨年8月に現地入りし、深刻な栄養失調の赤ちゃんなどを捉えた短編映画を撮影、国際映画祭に出品しました。東京都内で時事通信の取材に応じ、現地の厳しい現実について語りました。
現地取材の経緯と緊迫した状況
石田さんは2019年、映画コンテストで赤十字国際委員会(ICRC)の賞を受賞。その副賞だった「世界のICRC現場取材」の機会を利用し、ナイジェリア北東部ムビを訪れました。ムビは、ボコ・ハラムが2014年4月に女子生徒276人を拉致したチボクから南へ約80キロの場所に位置し、同年10月には約1カ月間、ボコ・ハラムに占領された過去があります。カメルーン国境に近く、越境して追跡を逃れやすいことから、今もこの一帯では襲撃が頻発しています。撮影は毎日、ICRCによる徹底した安全確認を経て行われましたが、宿舎も襲撃に備え3メートルの高い塀で囲まれ、緊急時に逃げ込むシェルターも備えた要塞のような状態でした。石田さんは「怖くて、むやみに街中を撮ることもできなかった」と、当時の緊迫した状況を振り返ります。
目撃した厳しい現実:飢餓と貧困の連鎖
石田さんが現地で目にしたのは、極めて深刻な状況でした。撮影した赤ちゃんは、まるで枯れ枝のように腕が細く、母親に話を聞いている間も、か細い声で泣き続けていました。ボコ・ハラムは過去20年にわたり学校を繰り返し襲撃し、多くの子供たちから教育の機会を奪ってきました。その結果、教育を受けられなかった世代が母親となり、収入を得る機会が乏しいため、貧困は世代を超えて深まっています。さらに、気候変動による日照りや豪雨で作物が失われたことや、ロシアによるウクライナ侵攻後の世界的なインフレーションも、ムビの貧困層をさらに追い詰める要因となっています。
ナイジェリアのボコ・ハラム支配地域での経験を語る映画監督・会社員の石田結愛さん
短編映画に込めた「生きる力」
しかし、そのような過酷な状況下でも「困難と闘い、頑張ろうとしている人たちがいる」。石田さんは、彼らの力強い姿を約14分間の短編映画「Make it through,do it yourself 立ち上がれ~自分の力で生きるということ」にまとめました。この作品は現在開催中の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」で、6月11日までオンライン上映されています。
石田さんの映画は、複合的な困難に直面しながらも生き抜こうとする人々の現実を伝えます。世界の現状を知り、支援を考えるきっかけになるはずです。