(国際ジャーナリスト・木村正人)
■ 指揮官は実践的で屈強なマリューク長官
[ロンドン発]ウクライナ保安庁(SBU)がドローンを使ってロシア深層部の戦略爆撃機、早期警戒管制機41機を破壊したとされる「蜘蛛の巣」作戦について、米紙ウォールストリート・ジャーナル(6月4日付)は「イスラエルのモサドのような目覚ましい作戦」と評価した。
【写真】ロシア軍化学・生物・核防衛部隊のイーゴリ・キリロフ司令官。SBUにより暗殺された
北大西洋条約機構(NATO)高官はウクライナ公共放送局(ススピーリネ)に「約40機が損傷、うち10〜13機が破壊された」ことを確認した。ウクライナに向け巡航ミサイルを発射してきた戦略爆撃機を失ったことで、ロシア軍はドローンと弾道ミサイルを増やす可能性がある。
WSJ紙は「SBUは数十年にわたり腐敗、裏切り、安全保障上の脅威より政敵を陥れることに明け暮れてきたと非難されてきたが、3年を超える戦争を経て、秘密作戦とドローン攻撃でロシアに狙いを定めるウクライナの鋭い槍の穂先へと変貌した」と報じている。
それによると、実践的で屈強なヴァシーリー・マリューク長官(42)の指揮下、SBUは裏切り者やロシア軍将校の暗殺、ロシア国内の軍需工場や石油施設を標的としたドローン攻撃を展開。水上ドローンを開発し、ロシア海軍の黒海艦隊をクリミア半島の母港から追い払った。
■ 海軍力を補うため開発された水上ドローン「シーベイビー」
「蜘蛛の巣」作戦でSBU工作員はドローン部品をロシアに密輸し、秘密の場所で組み立てた後、木製コンテナに隠してトラックでロシア深層部の空軍基地に向け輸送。ドローンは信号を失っても人工知能(AI)が事前に計画されたルートに沿って自動操縦し、標的を攻撃した。
SBUの特殊作戦センターは昨年8月、露西部クルスク州で一人称視点(FPV)ドローンを使って飛行中のロシア製Mi-28攻撃ヘリコプターの後方から接近、テールローターに体当たりさせて損害を与えた。飛行中のヘリに対しての攻撃にドローンが成功したのは初めてのため、衝撃を広げた。
ウクライナ戦争でドローンの重要性が高まる中、安価なドローンが高額の軍事装備を無力化できることを実証してみせた。
SBUが開発した水上ドローン「シーベイビー」(全長6メートル、航続距離1000キロメートル以上、最高時速90キロメートル)の役割も大きい。
ウクライナ海軍は2014年のクリミア併合で艦の大半をロシアに拿捕されたため、22年の全面侵攻の際には、さらに拿捕されないよう艦を自沈させた。失われた海軍力を補うため開発されたのがシーベイビーだ。最大6基のロケットランチャーと機関銃も搭載されている。