梅雨に考える「避難」とは?災害時の避難所だけじゃない自分に合った方法

本格的な梅雨の時期を迎え、大雨や洪水への備えが喫緊の課題となっています。災害発生時、「避難所に行かなければ」と考えがちですが、本来「避難」とは「難を避けること」が目的であり、その方法は決して一つだけではありません。自分や家族の状況に応じた最適な避難方法を事前に考えておくことが、命を守る上で非常に重要です。

本記事では、雲研究者で気象庁気象研究所主任研究官の荒木健太郎氏の新著『すごすぎる天気の図鑑 防災の超図鑑』の内容に基づき、災害時の多様な避難方法とその検討プロセスを解説します。

なぜ今、避難方法を考えるべきか?

毎年、日本各地で水害や地震などの自然災害が発生しています。特に梅雨の時期は、集中豪雨による河川の氾濫や内水氾濫(下水道などから排出できない水が溢れる現象)のリスクが高まります。自分の身にいつ災害が降りかかるか分からない状況だからこそ、比較的平穏な今の時期にこそ、具体的な避難計画を立て、見直しておく絶好の機会と言えます。

自分に合った避難方法を見つけるステップ

自分や家族にとって最適な避難方法を見つけるためには、いくつかのステップを踏む必要があります。避難所への移動だけが選択肢ではありません。

まずはリスクを知る:ハザードマップの活用

自宅や職場がある地域の災害リスクを正確に把握することが最初のステップです。国土交通省が提供する「重ねるハザードマップ」では、洪水、内水氾濫、土砂災害、高潮、津波など、多様な災害種別に応じた浸水想定区域や被害予測を確認できます。お住まいの地域にどのような危険が潜んでいるのかを知ることから始めましょう。

自宅環境と家族状況の確認

自宅の種類(高層マンションか一軒家か)、構造、立地(過去の浸水履歴など)によって、安全性が異なります。また、家族構成(高齢者、子ども、障がいのある方など要配慮者がいるか)、健康状態、ペットの有無なども、避難方法を検討する上で重要な要素です。自宅での安全確保(在宅避難)が可能か、あるいは避難所への移動が必須かを判断する材料となります。

安全な避難先と経路の検討

避難所への避難を検討する場合、自宅からの距離、経路の安全性(浸水しやすい道ではないか、崩壊の危険がある場所を通らないか)、避難所の収容能力や設備の状況を確認します。親戚や知人宅など、避難所以外の安全な場所への避難(縁故避難)も選択肢の一つです。

備蓄状況と心理的要因の評価

在宅避難を検討するためには、水、食料、生活必需品などの備蓄が十分かを確認します。また、災害時に家族だけで自宅に留まることへの不安感、ペットの同行避難が可能な避難所の有無など、心理的・環境的な要因も考慮に入れる必要があります。これらの要素を総合的に評価し、最も安全で実行可能な避難方法を判断します。

大雨による洪水で浸水した道路を歩いて避難する人々。災害時の避難方法には、避難所への移動だけでなく様々な選択肢があります。大雨による洪水で浸水した道路を歩いて避難する人々。災害時の避難方法には、避難所への移動だけでなく様々な選択肢があります。

危険が迫った際の行動:早期避難の重要性

台風の接近や集中豪雨が予測される場合は、常に気象情報を確認し、危険な状況になる前に避難を検討することが非常に重要です。自治体から発令される避難情報(高齢者等避難、避難指示など)に注意し、早めの行動を心がけましょう。

心理バイアスを理解し、率先して行動する

人は異常事態に直面しても、「自分だけは大丈夫だろう」と考えてしまう正常性バイアスや、「周りのみんなが逃げていないから自分も大丈夫だ」と周囲の行動に合わせてしまう多数派同調バイアスが働きやすい傾向があります。これらの心理的な偏りが、避難の遅れにつながることが少なくありません。危険を感じたら、バイアスにとらわれず率先して避難を開始し、可能であれば周囲の人々にも避難を呼びかける勇気が大切です。

より詳細な地域の情報:わがまちハザードマップ

お住まいの自治体が作成している「わがまちハザードマップ」には、国が提供する情報に加えて、地域ごとのより詳細な情報が盛り込まれている場合があります。一時的に緊急避難するための避難場所(指定緊急避難場所)や、危険度レベルに応じた具体的な行動指針などがまとめられています。自治体のウェブサイトなどで公開されている「わがまちハザードマップ」を必ず確認し、災害時の行動計画に役立てましょう。

まとめ

災害時の「避難」は、単に避難所へ移動することだけを指すのではなく、「難を避けるための多様な行動」全体を意味します。自分や家族に合った最適な避難方法を見つけるためには、ハザードマップで地域の災害リスクを知り、自宅環境や家族状況、備蓄状況などを総合的に評価することが不可欠です。そして、危険が迫った際は、心理的なバイアスに打ち勝ち、自治体の情報や自らの判断に基づき、早期かつ主体的に行動を起こすことが、命を守る鍵となります。平穏な今だからこそ、来るべき災害に備え、避難計画を具体的に検討しておきましょう。

参考文献

  • 荒木健太郎『すごすぎる天気の図鑑 防災の超図鑑』
  • 国土交通省「重ねるハザードマップ」
  • 国土交通省「わがまちハザードマップ」