元プロ野球投手として活躍した佐野慈紀氏が、2024年5月に糖尿病による合併症のため右腕を切断したことは、多くの人々に衝撃を与えました。糖尿病は、重篤な合併症を引き起こす可能性があり、特に恐ろしい病気です。佐野氏が自身の糖尿病とどのように向き合い、診断に至ったのか、そして見逃しがちな初期症状について、彼の経験をたどります。最初に指摘された血糖値異常の経緯は、多くの人にとって教訓となるでしょう。
診断のきっかけと病歴
佐野氏は1990年にドラフト3位で近鉄バファローズに入団。1996年には中継ぎ投手として初の1億円プレーヤーとなり、プロ通算41勝27セーブ、帽子を飛ばす『ピッカリ投法』で人気を博しました。
現役を引退してから5年後、39歳の時にせきが止まらない症状が続き病院を受診。このとき『軽い肺炎』と診断され、入院しました。そして、入院中に行った血液検査で血糖値が異常に高いことが判明し、2型糖尿病と診断されました。
入院中の血液検査で糖尿病が判明した佐野慈紀氏の経験を示すイメージ
現役時代の警告と健康管理
佐野氏は元々、糖尿病を意識していました。現役時代の27歳頃に受けたメディカルチェックで、「血糖値が高い」と指摘されたことがあり、それ以降は健康管理に気を付けていたといいます。
引退後の変化と健康診断の中断
現役時代はオフシーズンに必ず健康診断を受けていた佐野氏ですが、引退後、フリーランスになってからは定期的な健康診断を全く行わなくなりました。
引退から糖尿病診断までの5年間、健康診断に行かなかった理由として、本人は以下の3点を挙げています。
- 解説の仕事で忙しかった
- 野球教室などで体を動かしており安心していた
- 健康診断が面倒だった
佐野慈紀氏のプロ野球現役時代と引退後の健康診断受診頻度を比較するグラフ
佐野慈紀氏が引退後5年間健康診断を受けなかった理由を列挙したリスト
引退後の生活については、食事量は少し多い程度で、お酒はほとんど飲まなかったとのことです。
ほとんどなかった初期症状
糖尿病の初期症状について、佐野氏によると、診断が出るまでほとんど症状がなかったといいます。強いて言えば、『のどの渇き』や『体重が落ちる』といったことがあったそうですが、佐野氏はこれらを「運動などで、健康に気をつかっている証拠だと思っていた」と語っています。これらのサインを糖尿病の兆候として捉えていなかったことが、発見の遅れにつながりました。
糖尿病発症の要因:生活習慣と遺伝
暴飲暴食をしていなかった佐野氏がなぜ糖尿病になったのでしょうか。考えられる原因の1つとして、お母さんが糖尿病を患っていたという遺伝的な要因が挙げられます。北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟氏によると、糖尿病は生活習慣だけでなく、遺伝や体質なども関係しており、同じ生活習慣でも糖尿病になる人とならない人がいるとのことです。佐野氏の場合、遺伝的な素因に加えて、引退後の生活習慣の変化や健康診断の中断が影響した可能性が考えられます。
佐野慈紀氏が糖尿病を発症した背景にある生活習慣、遺伝、体質の関係性を示唆するイメージ
佐野氏の経験は、糖尿病が必ずしも派手な初期症状を示すわけではなく、血糖値異常が静かに進行する危険性を示しています。特に、健康に自信があると感じていても、定期的な健康診断がいかに重要であるかを浮き彫りにします。また、生活習慣だけでなく、遺伝や体質も発症に関わるという専門家の指摘は、病気への多角的な理解を促します。佐野氏の勇気ある告白は、多くの人々が自身の健康、特に糖尿病のリスクについて再考するきっかけとなるでしょう。