東京都 水道基本料金無償化の効果:政策課題を検証

東京都は2024年夏、水道の基本料金を4カ月間無償化する方針を打ち出した。これは猛暑と物価高騰に対応する生活支援策として、小池百合子知事が「都民が安心して暮らせる環境を整える」と説明している。

東京都の水道基本料金無償化に関する分析記事に添えられた蛇口の写真東京都の水道基本料金無償化に関する分析記事に添えられた蛇口の写真

政策概要と背景

今回の措置は水道料金のうち「基本料金」のみが対象であり、実際に使用した量に応じて課される「従量料金」は減免の対象外である。また、水道事業は多くの場合、基礎自治体や広域事務組合が担っており、市町村単位での料金減免例はあるものの、都道府県単位での実施は極めて異例と言える。

都によれば、この施策により1世帯あたり4カ月で約5000円相当の負担軽減が見込まれており、エアコン利用を促すことで熱中症のリスク低減を図るという意図がある。しかし、本施策の政策効果、制度設計、財源構造、他自治体への影響を精査すると複数の課題が見えてくる。

政策効果と課題の分析

本施策は熱中症対策としてエアコン利用を促進する目的が掲げられているが、支援対象は水道代であり、冷房に直結する電気代ではない。免除される基本料金額は給水管サイズによって異なるが、13ミリ管で860円、20ミリ管で1170円、25ミリ管で1460円(いずれも月額、税抜)であり、4カ月間の免除で軽減される額は3440円から5840円程度にとどまる。一方、家庭でのエアコン電気代は、部屋の広さや利用時間によっては月に5000円から1万円を超えることも少なくない。

なぜ水道が対象となったのか。電気は東京都の所管外であり、都が直接補助を行うには制度上の制約がある。また、国が実施する電気料金補助制度との二重補助の問題を生じさせるおそれもあった。その点、水道は都が直接運営する公営企業であり、制度設計上も手をつけやすい対象であったこと、財源も都の一般会計から支出可能であることが背景にあると考えられる。

さらに、基本料金の減免は、同じ世帯人数でも使用量が多い家庭ほど恩恵が相対的に薄れる設計となっており、世帯構成や生活スタイルに応じた公平性を担保しにくい構造的課題を抱えている。水道料金の軽減措置は、すでに生活保護受給世帯などに対して実施されており、今回の施策による追加の恩恵は限定的となる。むしろ、既存制度の対象から漏れている「準困窮層」こそ支援の手が届くべきであったという指摘もある。

まとめと今後の論点

このように、東京都の水道基本料金無償化策は、都民生活支援と熱中症対策を目的とするものの、減免額の限定性、支援対象と目的の乖離、そして公平性の課題など、複数の論点を抱えている。政策の効果を最大限に引き出し、真に支援が必要な層に恩恵が行き届くような、より的確な制度設計が今後求められる可能性がある。

Source link