梅雨の時期を迎え、蒸し暑さが続く6月の沖縄に、天皇ご一家がご訪問されました。日本国内で唯一の地上戦が行われた地での慰霊は、戦後80年の節目にあたり、特に重要な意味を持ちます。このご訪問は、じめじめとした沖縄の空気に新たな光をもたらしました。
6月4日から5日にかけて、天皇皇后両陛下と愛子さまは沖縄県を訪れられました。太平洋戦争における沖縄での激しい戦闘で犠牲となった方々の御霊を弔うため、慰霊を目的とされた旅です。ご一家は、沖縄戦で亡くなられた方々の遺骨を納める国立沖縄戦没者墓苑で献花をされたほか、平和の礎や平和祈念資料館など、沖縄戦に関連する数々の施設を巡られ、関係者から詳しい説明を真剣な面持ちで聞かれました。
愛子さまにとって、公的な活動として戦没者慰霊にご臨席されるのは今回が初めてのことでした。初めての場にもかかわらず、対馬丸記念館の館長である平良次子さんは、愛子さまのご様子を「リラックスされていて、柔らかい印象だった」と振り返っています。対馬丸事件は、第二次世界大戦中に学童疎開船を含む5隻がアメリカ軍の潜水艦に撃沈され、約1500人もの尊い命が犠牲となった悲劇です。ご一家は訪問2日目に、この事件に関する資料を展示する対馬丸記念館を訪れられました。
「お三方とも大変真剣なご様子でいらっしゃいましたが、張り詰めた雰囲気ではなく、とてもお話ししやすい印象でした。対馬丸事件で亡くなられた方々の遺影をご覧いただいた際に、『ここに飾られている遺影は、実際に亡くなった方の4分の1ほどです』とご説明したところ、愛子さまから『肖像画は集めなかったのですか？』というご質問を頂戴いたしました。そのような発想は私にはなかったため、大変驚きましたし、そのお考えから『全員分を飾ってほしい』という愛子さまの深い優しさが垣間見え、胸を打たれました」と平良館長は語っています。
沖縄を訪問され、かりゆしウェア姿で慰霊に臨まれる愛子さま
対馬丸事件では、多くの幼い子どもたちが犠牲となりました。若い命を悼むために建てられた小桜の塔も併せてご視察されました。小桜の塔でのご様子について、案内を担当した比嘉正詔さんは次のように述懐しています。
「説明に熱心に相槌を打たれるだけでなく、具体的なご質問もたくさんいただきました。『毎年恒例の慰霊祭ではオオゴマダラという蝶を飛ばします』と説明申し上げると、お三方は大変強いご関心をお示しになりました。雅子さまが『何匹ほど飛ばしているのですか？』とお尋ねになると、愛子さまも続けて『ここ以外の場所でも飛ばしているのですか？』『そんなにもたくさんの蝶をどこで育てているのですか？』と矢継ぎ早に質問をいただきました。雅子さまと愛子さまが時折、目を合わせながら質問されていたのも印象的でした」
天皇ご一家の沖縄ご訪問は、戦後80年の節目に改めて平和の尊さを考えさせられる機会となりました。特に愛子さまが初めて公的な場で戦没者慰霊に臨まれ、犠牲者に寄り添う深い優しさと、未来への関心を示されたことは、多くの人々に感銘を与えたことでしょう。対馬丸記念館や小桜の塔でのご質問からも伺えるように、若い世代が歴史から学び、平和への思いを繋いでいくことの重要性を改めて感じさせるご訪問となりました。
