大分県別府市で発生し、大学生2人が死傷したひき逃げ事件は、まもなく発生から3年を迎えます。逃走を続ける八田與一(はった よいち)容疑者に対し、これまで道路交通法違反の容疑がかけられていましたが、この度、捜査当局により新たに「殺人」と「殺人未遂」の容疑が追加されたことが明らかになりました。事件の性質が大きく変化し、今後の捜査に新たな展開が予想される中、遺族はABEMA的ニュースショーの取材に対し、現在の複雑な心境を語っています。
大分県別府市で発生したひき逃げ死傷事件で、殺人・殺人未遂容疑が追加された指名手配犯、八田與一容疑者の顔写真
新容疑追加の背景
大分県警は、事件発生当初から殺人を視野に入れて捜査を続けてきたと説明しています。今回、殺意を裏付ける新たな証拠が得られたことにより、容疑の追加に踏み切ったとのことです。これにより、殺人罪の時効がなくなるため、捜査の継続が可能となり、八田容疑者の早期逮捕に向けた動きが加速することが期待されます。
亡くなった大学生の父親は、今回の容疑追加について、「結局、皆さんが力を貸してくれたおかげで全国の署名活動なり、マスコミの方々だったりを『願う会』であったり、みんなが協力してくれたから警察も動いたのかな」と、多くの人々の支援に感謝の意を示しました。一方で、「何で3年もかかるんですか?」と、捜査の遅れに対する率直な疑問も投げかけつつ、「精一杯やれることをやっています」という警察からの回答に、複雑な思いを抱いている様子がうかがえます。
事件概要と捜査状況
この事件は、2022年6月、大分県別府市の県道で発生しました。赤信号で停車していた2台のバイクに、八田容疑者が運転する軽乗用車が後方から追突。この事故で大学生一人が死亡、もう一人が負傷しました。八田容疑者は事故現場から何も持たず裸足で逃走し、その後、ヨットハーバーで着ていたTシャツが発見されたものの、現在に至るまでその足取りは掴めていません。
八田容疑者は、道路交通法違反容疑では全国で初めて重要指名手配されており、大分県警にはこれまでに1万件近く(2025年5月末時点で9600件)の情報が寄せられています。しかし、残念ながら、いまだに逮捕に繋がる有力な手掛かりは得られていない状況です。父親は、寄せられた情報について「確かに似た人はたくさんいるかもしれないけど、なかには『本当だった』という人もいるかもしれない。それは1件1件潰して欲しい」と、警察に対し丁寧な捜査を求めています。
事件直前の遭遇と専門家の見解
事件発生直前、亡くなった大学生は八田容疑者と遭遇し、一方的に言いがかりをつけられていたことが分かっています。追突された大学生の証言によると、八田容疑者は喧嘩腰の態度で因縁をつけ、その後、バイクが走り去ろうとした瞬間にすぐ後ろまで接近し、明らかにアクセルをベタ踏みして追突してきたといいます。
交通事故調査鑑定人の佐々木尋貴氏は、衝突時の速度が100キロ近くに達しており、ブレーキ痕がなかったことから、「危険を感じて急ブレーキ途中に減速しながらドーンとぶつかったような事故ではないと思う」との見解を示しました。「ぶつかるまでは間違いなくまっすぐぶつかっていってる。そこで何か回避するための措置は講じていなかったと思う。二人亡くならなかったのが奇跡」と、意図的な追突であった可能性を示唆しています。
さらに、2021年7月から8月にかけて八田容疑者と留置場で同部屋だったという男性からは、事件を示唆するような証言が得られています。男性が「車で弾いたらええねん」「車で弾いたら事故扱いやろうが。たとえ相手が死んでもな事故や。仮にパクられても暴行とか傷害とか殺人にはならんやろ」と話した際、八田容疑者は「なるほど」と熱心に聞き入っていたといいます。
これらの状況に加え、国際弁護士の清原博氏は「いろんな事情を考えれば、今回の件は殺人容疑になる可能性はあると思っている」と述べ、元徳島県警捜査1課警部の秋山博康氏も逮捕状を「殺人」及び「殺人未遂」で取るべきだと提言していました。元東京地検特捜部で弁護士の若狭勝氏は、殺意の有無は本人の供述ではなく、客観的な状況から判断されるとする近年の傾向を説明し、「殺すつもりがあったとまでは、逃げているしわかんないから…』なんて、くだらねぇこと言ってんじゃねーよ」と、殺意認定への可能性を強く示唆していました。
容疑変更への遺族と支援の動き
遺族は、当初から「事故ではなく事件、単なるひき逃げではない殺人事件だ」と訴え続け、殺人罪への変更を求めて署名活動を展開してきました。大切な息子を失った悲しみの中で、遺族と支援者(ママ友など)は粘り強く活動を続け、「願う会」として八田容疑者を殺人罪で告訴するなどの法的手段にも訴えました。当初は警察から道路交通法違反での立件を示唆される雰囲気もあったようですが、遺族は諦めずに働きかけを続けました。
2024年6月には別府市長を訪ねて支援を願い出ており、長野恭紘市長も「まさに本当にちょっとひどすぎるというか、殺意があったというので間違いないだろうと私なんかも思っている」と遺族の訴えに理解を示しています。別府市内でも有志による支援の輪が広がり、警察への働きかけや、県内でのビラ巻き、署名活動を通じて殺人罪への変更を強く訴えてきました。これらの遺族や地域住民、支援者の粘り強い活動と願いが実を結び、今回の殺人罪・殺人未遂罪の追加という結果に繋がった形です。
容疑変更の持つ意味と続く捜査
八田容疑者に殺人罪が追加されたことは、彼の時効という「ゴール」を奪ったことになります。同時に、捜査当局にとっても「締め切り」がなくなったことを意味します。しかし、これは捜査が長期化する可能性もはらんでおり、いまだ確保に至らない他の逃走事件が示すように、ゴールなき捜査が続くことも考えられます。
亡くなった大学生の父親は、息子を失った悲しみの中で、仕事に行く前や帰宅後には必ず仏壇のある部屋を訪れ、「行ってきます」「ただいま」と語りかけているといいます。「一人で喋るだけですけどね…」と語るその姿からは、癒えることのない深い悲しみが伝わってきます。今回の容疑変更後、父親は天国の息子にLINEで「やっと殺人罪に切り替えたよ」と報告したとのことです。そして、最後に「はー ため息ばかり」と付け加えていました。
この事件に関する情報をお持ちの方は、どんな些細なことでも構いませんので、別府警察署(0977-21-2131)までご連絡ください。X(旧Twitter)のABEMA的ニュースショー番組公式アカウント(@News_ABEMA)のダイレクトメッセージでも情報を募集しています。
出典: ABEMA TIMES / Yahoo!ニュース (https://news.yahoo.co.jp/articles/6e8180191ff080b76111e097b8a97497519a57f5)