米カリフォルニア州で開催された高校女子陸上競技会で、女性として自己を認識するトランスジェンダーの選手が二つの種目で優勝し、波紋を呼んでいる。州の高校体育連盟(CIF)は、次点の選手も優勝とする特別ルールを適用。この対応は、女子競技へのトランスジェンダー選手の参加を認める「合理的」な手法と評価される一方、ドナルド・トランプ前大統領は連邦補助金の停止を示唆して反対するなど、全米で議論が再燃している。
論争の中心にいるのは、16歳のABヘルナンデス選手だ。5月下旬に行われた州大会において、高跳びと三段跳びで優勝を果たした。さらに、走り幅跳びでも2位となり、三種目で表彰台に上がった。
トランスジェンダー選手の参加への反対論と全米の状況
米国内では、トランスジェンダー選手の女子競技への参加に対し、反対意見が多く聞かれる。主な理由として挙げられるのは、性自認が女性である場合でも、生物学的な男性として思春期を経験した選手が、女性競技において身体的に有利になるという懸念だ。また、コンタクトを伴う競技では、負傷リスクが増加する可能性も指摘されている。こうした状況を受け、大会への出場を見送ったり、参加選手への抗議としてボイコットを行ったりする女子選手も少なくない。
トランプ前大統領は、こうした反対の声を重視し、2024年2月にはトランスジェンダー選手が女子競技に参加することを原則禁止する大統領令に署名した。AP通信の報道によると、これまでに少なくとも24の州が、同様に女子競技へのトランスジェンダー選手の参加を法的に制限または禁止している。
カリフォルニア州の対応と異例の措置
米カリフォルニア州の高校女子陸上大会で競技中のトランスジェンダー選手、ABヘルナンデス氏
しかし、カリフォルニア州は他の多くの州とは異なり、州法によってトランスジェンダー選手の女子競技への参加を妨げてはならないと定めている。これに従い、州高体連(CIF)はヘルナンデス選手の大会参加を認めた。その上で、今大会に限り、トランスジェンダー選手に次ぐ成績を収めた選手も同じ順位(この場合は優勝)とする異例の措置を講じた。この特別ルールは、ヘルナンデス選手の参加によって女子選手が出場を辞退する事態を防ぐための対応だとみられている。
カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、州高体連の対応について「合理的である」と評価する姿勢を示した。一方で、米司法省は、州高体連および州側の対応が連邦法に違反していないかどうかの調査を進めている。
大会中の抗議活動と選手の反応
州大会の開催期間中、会場周辺にはヘルナンデス選手の参加に抗議する人々が集結した。抗議活動の一環として、競技場の上空を「女子スポーツへの男子の参加は禁止だ」というメッセージを記した横断幕を吊り下げた飛行機が通過する場面も見られた。これは、トランスジェンダー女性を生物学的な男性と見なす立場からの強い反対意見を示すものだ。
大会後、ヘルナンデス選手は地元メディアの取材に応じ、「たくさんのヘイトコメントがあったけれど、あまり気にしていない」と語った。彼女は、自身がトランスジェンダーであることを受け入れ、支えてくれた母親の存在が大きかったことを明かした。
トランスジェンダー選手の競技参加を巡る議論は、スポーツにおける公平性、性自認の権利、そして州法と連邦法の関係など、複雑な問題を提起しており、今後も注視が必要な国際的な社会政治動向の一つである。