帝国データバンクの発表によると、2024年度(2024年4月~2025年3月)のカレー店の倒産件数が2年連続で過去最高を記録しました。この経済的な背景には何があるのでしょうか。本稿では、「個人店」と「チェーン店」の比較を軸に、カレー店を取り巻く現状を深掘りします。
「過去最高」の数字を冷静に捉える必要性
このニュースの「過去最高」という見出しは、しばしば「大量倒産」を連想させがちですが、実際の数字はそのイメージとは異なります。2024年度のカレー店倒産件数は13件で、前年度の12件から微増しています。これは、2024年に過去最多の72件を記録したラーメン店の倒産数と比較すると、かなり少ない件数です。したがって、このニュースを受け止める際には、「過去最高」という言葉に過度に反応せず、冷静な視点を持つことが重要です。
飲食業全体を襲う厳しい経営環境
そもそも、ラーメン店を含む多くの飲食店業態で、2024年に倒産件数が過去最高を更新しています。中華料理店や西洋料理店、居酒屋など、多岐にわたる飲食店が厳しい状況に直面しています。特に個人経営の店舗は、近年の物価上昇や人件費の高騰に加え、比較的安定していたはずのコメの価格高騰が追い打ちとなり、大きな打撃を受けています。
制度的な側面では、コロナ禍で提供された新型コロナ緊急融資の返済開始時期が2024年にピークを迎えたことも、倒産増加の要因として指摘されています。コロナ禍による融資によって一時的に延命されていた個人店が、返済負担に耐えきれず経営破綻に至るケースが増えていると考えられます。こうした複数の要因が重なり、飲食業界全体の倒産件数が増加傾向にあるのです。
ご飯にカレールーをかける手元のクローズアップ。日本の多くのカレー店が厳しい経営状況に直面していることを示唆。
個人店を圧迫する「牛丼チェーン2024秋カレー戦争」
カレー店は、他の飲食業態と比較して特に逼迫しているとは言えませんが、倒産件数が着実に増加しているのは事実です。その背景には、飲食業全体を取り巻く環境に加え、カレー業界特有の事情も関係しています。
その一つが、2024年が「カレー戦争」の年であったという指摘です。カレー総合研究所は、「牛丼チェーン2024秋カレー戦争が勃発」と題したプレスリリースで、すき家、松屋、吉野家といった大手牛丼チェーンが2024年秋に相次いでカレーの新商品やリニューアル商品を投入し、牛丼ではなくカレーで顧客獲得競争を繰り広げている状況を「カレー戦争」と表現しました。
例えば、松屋は2024年7月に「チキンカレー」をレギュラーメニュー化。吉野家も9月から「黒カレー」などを再投入し、すき家は10月にカレーメニュー全体を刷新しました。
メニュー開発に加え、牛丼各社が「カレー業態店舗」に力を入れている点も見逃せません。松屋は「マイカリー食堂」を2013年から展開していますが、ここ数年で店舗数を急増させており、「松屋」や「松のや」ブランドとの複合店舗化を進めています。現在、専門店と複合店を合わせて約150店舗を展開しています。吉野家も2024年には「もう~とりこ」というカレー専門業態を東京・浅草にオープンするなど、新たな動きを見せています。
大皿に盛られたチキンカレーのアップ。牛丼チェーン各社が力を入れる低価格カレーメニューの一例。
このように、大手牛丼チェーンがカレー事業を強化し、意欲的に展開するようになりました。巨大チェーンが提供するカレーは、材料調達や物流におけるスケールメリットを活かせるため、個人経営の店舗よりも安価で提供できる場合が多いのが実情です。さまざまなモノの価格が上昇し、消費者の間で生活防衛意識が高まる中で、外食においてもより手頃な価格の商品が受け入れられやすい状況にあります。
こうした大手チェーンによる低価格で多様なカレーの攻勢に、競争力の弱い個人事業者が対応しきれなくなるケースが増加したことも、カレー店の倒産件数増加の一因と考えられます。もちろん、独自の工夫や強みを持つ個人店であれば、厳しい競争環境下でも生き残る道はあります。しかし、市場全体の戦いがよりシビアになっていることは確かです。
また、この「カレー戦争」が2024年秋に本格化したことを考慮すると、その影響は2025年にかけてさらに顕著になる可能性が高いです。その意味でも、個人のカレー店にとっては、今後も厳しい経営状況が続くことが予想されます。
Source: https://news.yahoo.co.jp/articles/4d4ef88a3f1f8399b82fbe0a544305d99b0bf881