イランとイスラエルの衝突激化により、現在、イスラエル国内には約4万人の外国人観光客が足止めされている。航空便は次々と運航中止となり、彼らは事態の沈静化を待つか、近隣諸国を経由する高額な迂回ルートを選択せざるを得ない状況に置かれている。この予期せぬ事態は、中東地域の新たな緊張の高まりが、平和な観光活動にも深刻な影響を及ぼしている現状を浮き彫りにしている。
緊迫下のエルサレム:観光客たちの証言
イスラエルは13日早朝、イランへの攻撃を開始し、これを受けて国内の空域を閉鎖した。イスラエル観光省によると、これにより、前述の約4万人の観光客が出国不能となった。ほとんどの地元住民と同様、観光客にとってもイランとの新たな戦争勃発は全く想定外だったという。
米カリフォルニア州出身のジャスティン・ジョイナーさんは、ネバダ州に住む父と息子と共にエルサレムで休暇を過ごしていた。彼は、イスラエルがパレスチナ自治区ガザで武装勢力ハマスへの攻撃を続けていることから、何らかの混乱は予想していたが、「イスラエルがイランを攻撃するとは予想していなかった。これは全く次元の違う緊張だ」と語る。過去2晩、イランの弾道ミサイルがこの地区の上空を飛来し、上空での迎撃ミサイルの衝撃波を感じたという。「家族を防空壕に避難させるのは不安なことだ。アメリカではそんなことは考えられない」と、滞在先の東エルサレムのホテルから取材に答えた。
オハイオ州クリーブランド在住の医師、グリア・グレイザーさんも、看護研修プログラムのためエルサレムに滞在中だ。サイレンが鳴ると、ホテルの10階から階段を駆け下りて避難所に急がなければならない。13日以降、こうしたサイレンが定期的に鳴っている。「安全だと感じている。でも、深い眠りから起こされて安全な場所に急がなければいけないのが一番辛い。家族は死ぬほど怖がっている。彼らは24時間ずっと攻撃が続いていると思っているようだが、実際は違う」と話した。
エルサレム旧市街を行き交う人々(イラン・イスラエル衝突激化により観光客が足止めされる中)
出国困難と代替手段:ヨルダンへの陸路
帰国を早めることを検討している観光客もいる。最も現実的な脱出ルートは、隣国ヨルダンへ陸路で移動し、日中の運航を続けているアンマンの空港から飛行機に乗ることだ。しかし、このルートも時間とコストがかかる。
イスラエルのメディアは、中止されたテルアビブのゲイ・プライド・パレードに参加するため12日にイスラエルに到着したばかりのトランスジェンダーの米国人インフルエンサー、ケイトリン・ジェンナー氏がこのヨルダン経由で出国したと報じている。彼女は数時間前、防空壕で赤ワインを飲んでいる自身の写真をXに投稿し、「安息日を祝うのに、こんな素晴らしい方法があるなんて」と皮肉を込めて綴っていた。
滞在を選ぶ人々、停止する観光
一方、誰もが急いで出国しようとしているわけではない。ロンドンからテルアビブに住む娘に会いに来ていたカレン・トゥーリムさんのように、状況下での滞在を選択する人もいる。「ここに来てから2日も経たないうちに、イスラエルがイランを攻撃した。動けなくなってしまった」とトゥーリムさんは語る。エルサレムとは異なり、テルアビブはイランのミサイルの直撃を受けたため、トゥーリムさんはホテルのシェルターに断続的に避難せざるを得なかった。しかし、娘のそばにいられることで安全だと感じており、ロンドンでニュースを見て心配するよりも「ここにいる方が安心できる。だから今のところは大丈夫だ」と話している。
イスラエル観光省は、足止めされた旅行者のために、英語とヘブライ語で対応する24時間体制のバーチャルヘルプデスクを設置したが、観光インフラは事実上停止している。全ての博物館は一時閉鎖され、エルサレム旧市街への立ち入りは居住者以外には禁止され、多くの商店は閉まったままだ。
エルサレム在住のアンワル・アブ・ラフィさんは、現地の様子を「通りも店も閑散としている」と語る。「人々はこの暗闇の中で何か良いものを見つけようと、小休止を切望している。私たちは、未来はより良くなるだろうと自らを欺いているのだ」と、厳しい現実の中での希望と諦めが混じった複雑な心情を吐露した。
イランとイスラエルの衝突激化は、イスラエル国内の外国人観光客に予期せぬ困難をもたらし、約4万人が足止めされる事態となっている。ミサイル攻撃への不安、困難な出国、そして閉鎖された観光施設。こうした厳しい現実の一方で、愛する家族のそばにいる安心感から滞在を選ぶ人々もいる。中東情勢の緊迫は、観光という平和な活動にも深刻な影響を与えており、現地の住民と同様、観光客もまた、この先の見えない状況からの「小休止」と「より良い未来」を強く切望している。