立憲民主党代表の野田佳彦氏が、皇位継承を巡る非公式協議における自民党との合意が一方的に破棄されたとして、強い怒りを表明しています。特に、女性皇族が結婚後も皇室に残るという点を今国会で先行してまとめることで自民党最高顧問の麻生太郎氏と合意していたにもかかわらず、それが反故にされたと告発しました。この背景には、内閣官房参与(皇室制度連絡調整総括官)の山崎重孝氏による入れ知恵があったと指摘されています。立法府間の合意が内閣官房の官僚によって覆されるという異例の事態は、憲政上の問題提起とも言えます。
非公式協議の開始と初期提案
野田氏と麻生氏による非公式協議が始まったのは4月下旬のことでした。衆議院議長の額賀福志郎氏と副議長の玄葉光一郎氏の意向を受け、女性皇族の結婚後の皇室残留問題を先行して合意するという方針が採られました。協議の冒頭、麻生氏は、女性皇族の夫が旧宮家の子孫である場合に限り、その夫を皇族と認めるという案を提示しましたが、これは愛子さまや佳子さまといった女性皇族の婚姻の自由を著しく制限する内容であり、現実的ではないとして受け入れられませんでした。これに対し、野田氏は、夫を皇族とするかどうかの判断を皇室会議の決定に委ねるという対案を示しました。
協議の進展と5月27日の合意
非公式協議は、4月24日、5月8日、5月22日と重ねられました。この間、麻生氏は自らが会長を務める自民党皇位継承懇談会に協議の状況を持ち帰り、協議への「対応一任」を取り付けました(5月21日)。自由な交渉権限を得て臨んだのが、5月27日に都内ホテルで人目を避けるように開かれた協議でした。共同通信の報道によれば、野田氏が「女性皇族の人生設計に関わる重要な問題だ。国会は例え匍匐(ほふく)前進でもいいから、一歩でも前に進まなければならない」と述べ、女性皇族の婚姻後の皇室残留に絞った先行合意を提案すると、麻生氏も「そうだね」とこれに同意したとされています。野田氏は、今国会中に何らかの合意に至らなければ立法府の権威に関わるという強い危機感を持ち、自身の持論であった「女性皇族の夫と子も皇族とする案」については「先送り」とすることに大幅な譲歩を見せました。これにより、野田氏、麻生氏、額賀氏、玄葉氏の四者間での合意が形成されたのです。
サンデー毎日6月29日号の表紙イメージ、皇位継承を巡る政界の動きを報じる記事の出典元
今後の予定と合意破棄の波紋
合意に基づき、次の協議となる6月3日には、衆参両院の正副議長による「取りまとめ」を作成し、各党での党内手続きに入ることを決定しました。これにより、秋の臨時国会での皇室典範改正案提出と成立を目指す道筋が見えていました。しかし、その後、この野田氏と麻生氏の間で確認された先行合意は反故にされ、皇位継承を巡る議論は再び停滞する事態となりました。野田氏が麻生氏との合意破棄の背景に山崎重孝氏の存在を指摘している点は、内閣官房という行政府の立場にある人物が、立法府における超党派の協議、さらには議長・副議長の主導する合意形成プロセスに影響を与えたという深刻な問題を提起しています。
結論として、女性皇族の結婚後の皇室残留という喫緊の課題に対する国会での合意形成は、関係者間の認識の齟齬や、指摘されている行政府からの働きかけにより頓挫しました。この事態は、国会という立法府の役割とその権威に関わる問題であり、今後の皇位継承を巡る議論の行方に大きな影を落としています。立法府内の合意形成プロセスに対する外部からの不当な影響は、民主主義の根幹を揺るがしかねない懸念を生じさせています。
出典:サンデー毎日6月29日号