「唐揚げ1個給食」問題、給食委託会社を責めるのは酷な理由とは?専門家が指摘する根本原因

福岡市立小学校で4月に出された給食メニューが、インターネット上で大きな波紋を広げた。「麦ご飯・鶏の唐揚げ1個・春キャベツのみそ汁・牛乳」という献立内容に対し、「あまりに貧相だ」「子どもたちがかわいそう」といった声が多数寄せられたためだ。連日のように食卓に並ぶ学校給食の質が低下しているのではないかという懸念が高まっている。学校給食を委託する企業へのコンサルティングを手掛ける専門家、井上裕基氏はこの件について、給食委託会社のみを非難するのは適切ではないと指摘する。その背景には、保護者や自治体側の「給食は安価であるべき」という根強い意識があり、それが結果として給食会社の運営を圧迫しているというのだ。

日本の未来を担う子どもたちの学校給食日本の未来を担う子どもたちの学校給食

専門家である井上氏は、今回の福岡市の給食メニューを見て、自身の職業的な立場からはまず物価高騰の中でやりくりに苦慮した給食委託会社の状況に思いを馳せたと語る。しかし同時に、子どもを持つ保護者としての視点からは、さすがにメインのおかずが唐揚げ1個というのは寂しいと感じたという。

そもそも、学校給食は「学校給食法」という法律に基づいて提供されている。日々の献立や使用する食材を決定する主体と、それに対する責任は、地域の教育委員会などの自治体側にある。実際に調理業務を担う給食会社や運営者は、あくまで教育委員会等が決定した「献立通りに」食事を作る立場だ。食材の発注は給食会社が行うが、「どれくらいの予算内で、どのような食材を、どれくらいの量購入するか」といった根幹部分は、自治体や教育委員会が設置する献立委員会が決めるのである。

この構造から明らかなように、自治体や教育委員会が学校給食をどのように位置づけ、どれだけの予算を投じるかによって、日々のメニューの質は大きく左右される。例えば、東京都足立区は「日本で1番美味しい給食」をビジョンに掲げ、栄養バランスだけでなく、見た目や味にも配慮した充実した給食を提供していることで知られている。一方、今回の福岡市のように、コストや予算の制約が厳しければ、残念ながら質素なメニューにならざるを得ない場合も出てくるのだ。

今回の「唐揚げ1個給食」が象徴するように、学校給食が直面する問題は、単に特定の給食会社の手抜きなどではない。物価高騰という経済的な要因に加え、長年にわたり社会全体に根付いた「給食は安くて当たり前」という意識、そしてそれに基づく自治体の予算編成が、給食の質を維持することを困難にしている複合的な問題であると言える。日々の献立は3〜6カ月前に決定されるため、急激な物価変動に対応することも容易ではない。子どもたちの健やかな成長を支える学校給食の質を確保するためには、委託会社への一方的な非難ではなく、給食の予算、献立決定プロセス、そして社会全体の給食に対する意識そのものを見直す必要があるだろう。

福岡市立小学校で提供された唐揚げ1個の給食の写真福岡市立小学校で提供された唐揚げ1個の給食の写真

子どもたちの給食を守るためには、給食を提供する側の努力だけでなく、それを受け取る保護者や、予算を決定する自治体が、給食の価値を正しく理解し、適切なコストを負担するという意識を持つことが不可欠だ。今回の問題を機に、学校給食の現状と課題について、より多くの人が関心を持ち、建設的な議論が進むことが期待される。

出典:
https://news.yahoo.co.jp/articles/19ba4f23ffa845394f83ceb00e8c0b2d7143031a