千葉県船橋市立医療センターの移転・建て替え計画が、見通しが立たない状況に陥っています。移転予定地が洪水リスクの高いエリアであることに加え、近年の物価高騰によって建設費用が大幅に膨らみ、建設工事の入札が不調に終わったことが主な原因です。この重要な公共事業計画をこのまま進めるべきか、あるいは抜本的に見直すべきか、6月22日に投開票される船橋市長選において、立候補者らが活発な論戦を繰り広げています。船橋市民の医療体制を左右する船橋市立医療センターの移転・建て替え問題は、選挙の大きな争点の一つとなっています。
医療センターは1983年、JR船橋駅から約2.7キロ離れた高台に開院しました。市内では唯一の第三次救急医療機関であり、重篤な患者を受け入れる救命救急センターの指定を受けています。また、専門的ながん治療や、大規模災害発生時の重症患者対応の拠点としての役割も担っており、周辺6市を含む東葛南部保健医療圏(対象人口約180万人)の中核病院として地域医療を支えています。しかし、開院から40年以上が経過し、建物や医療設備は老朽化が進んでいます。度重なる増築によって建物内部の構造が複雑化し、医療活動における使い勝手の悪さも指摘されており、新しい病院への建て替えが喫緊の課題となっています。
老朽化が進む船橋市立医療センターの外観写真。移転・建て替え計画の見通しが立たず、今後の行方が注目されています。
市幹部と外部の有識者からなる検討委員会は2016年、現在地から南へ約1キロメートル離れた海老川上流地区を移転候補地とする報告書を公表しました。市はこの報告に基づき、医療や健康をテーマにした大規模な都市開発プロジェクト「ふなばしメディカルタウン構想」を発表。2022年には、約42.3ヘクタールに及ぶ予定地を区画整理し、船橋市立医療センターの移転新築と東葉高速鉄道の新駅誘致を核とする基本方針をまとめました。
これに対し、一部の市民団体からは、移転候補地が過去に下流域の洪水を防ぐ遊水池の役割を果たしてきた浸水想定区域であることを指摘し、災害拠点病院としての適格性に疑問を呈する声が上がりました。市は、区画整理事業の中で調整池の整備など、新たな治水対策を講じることで安全性を確保する方針を示しました。2022年1月には、千葉県都市計画審議会がこの開発計画を容認しましたが、その際、委員から相次いで洪水リスクへの懸念が表明されたため、「治水への影響に関する検討を続け、住民に理解いただけるよう、丁寧に説明を重ねること」という、異例ともいえる付帯意見が付けられました。その後、市は新たな降雨シミュレーションの結果を公表し、大きな影響はないとの見解を示しましたが、納得しない市民団体は計画の見直しを求める要望書の提出などを続け、市との意見の隔たりが解消されていません。
船橋市立医療センターの移転・建て替え計画は、建設資材費や労務費の世界的な高騰によって、事業費が当初の想定を大幅に超えて膨らみ続けています。市が国や千葉県に提出した資料によると、2019年の基本計画段階での本体工事費は約290億円と見積もられていましたが、2023年の基本設計時には約560億円に急増。工事費削減のための検討が行われたものの、2024年5月の工事発注時には約570億円にまで増加しました。
2024年9月には、入札への参加を予定していた唯一の共同企業体(JV)側が、「履行が困難」であることを理由に入札を辞退するという事態が発生しました。JV側の積算額は、市の予定価格を25%も上回っていたとされています。この入札不調により、当初2026年度から2027年度に予定されていた新病院の開院は、その後さらに1年以上の遅れが確実となり、現在は具体的な開院時期の見通しが全く立たない状況となっています。市は、他の自治体とも連携し、国や県に対して病院建設や経営への支援を要望していますが、計画を前進させるための抜本的な対策はまだ示されていません。
この船橋市立医療センターの移転・建て替え問題は、22日に投開票される船橋市長選における主要な争点の一つとなっています。告示前の8日に開かれた公開討論会では、立候補した5人がそれぞれの見解を述べ、活発な議論が交わされました。
無所属新人で元国連職員の江川厚子氏(67)は、病院の建て替え自体は必要であるとしながらも、「高台の地盤が固い所からハザードエリアへ移すのは場所が悪い」と、計画されている移転先の選定に疑問を呈しました。
無所属で4期目を目指す現職の松戸徹氏(70)は、「市民の命を守る体制を確保するということで、私は確実に絶対に前へ進まなければいけない」と述べ、現行計画の推進への強い意欲を示しました。
無所属新人で元千葉県議会議員の鈴木弘子氏(51)は、建て替えの必要性は認めつつも、「きちんと治水の整備がされない中で、病院が建つことになる」と指摘し、治水対策の不十分さを懸念しました。
無所属新人で元船橋市議会議員の津曲俊明氏(47)も、建て替えは必要との認識を示しつつ、「情報公開と説明責任を果たし、市民の理解を得る必要がある」と述べ、プロセスにおける透明性の重要性を強調しました。
諸派新人で元船橋市議会議員の高橋宏氏(48)は、「代替医療などさまざまな医療のあり方を検討した上で、建て替え計画を作るべきだ」と主張し、現行計画の中止と代替案の検討を訴えました。
船橋市立医療センターの移転・建て替え計画は、多岐にわたる課題に直面しており、その行方は依然として不透明です。市民の医療提供体制と直結するこの問題は、市長選の結果によって大きく左右される可能性があります。
参考資料:
https://news.yahoo.co.jp/articles/4404a759b7354957569526039b070c109c0dfcab