イエス、キング・クリムゾン、ジェネシスといった伝説的なプログレッシブ・ロックバンドで活躍し、「プログレ史上最高のドラマー」と称されるビル・ブルーフォード氏が、75歳で現役復帰を果たしました。引退を表明し、自身のドラムセットまで処分した彼が、この度ギタリストのピート・ロス率いるジャズ・トリオの一員として、6月25日から日本のビルボードライブで来日公演を行います。
伝説のプログレッシブ・ドラマーの軌跡
イエス、キング・クリムゾン、そしてジェネシス。これらのバンドはプログレッシブ・ロックの代名詞と言えます。ビル・ブルーフォード氏は、1972年から1976年にかけて、これら「三大バンド」全てでドラマーを務めた唯一無二の存在です。本人は自身の経歴について、「3つのバンドを脱退しただけのミュージシャン、あるいは一つの場所に留まらない人間だと言われているだけさ」とユーモアを交えて語っています。
プログレッシブ・ロック界の巨匠、ビル・ブルーフォード氏が1979年にステージでダイナミックなドラム演奏を披露しているライブ写真
音楽活動からの完全引退
ブルーフォード氏は長らく音楽シーンから身を引き、「過去の人」と見なされていました。2009年以降は趣味としてすらドラムを演奏しなくなり、所有していた楽器も全て処分したとされています。これにより、彼が再びステージに立つことはないだろうと広く考えられていました。実際、2019年のインタビューでは、「もはや音楽を演奏することへの情熱は一切ない。今は本を書いたり、孫と過ごしたり、他のやりたいことに時間を費やしている」と述べ、復帰の可能性を完全に否定しているように見えました。
小規模ジャズでの意外な復帰
しかし、それからわずか3年で彼の心境に変化が訪れます。ブルーフォード氏は、ピート・ロス・トリオと共にイングランド各地の小さな会場でジャズの演奏を再開しました。これは、かつて三大バンドで経験したスタジアム規模の大観衆を相手にしたコンサートとは対照的です。しかし、彼にとって重要なのはその規模でした。ブルーフォード氏は、大規模なスタジアム公演よりも、親密な雰囲気の小規模なジャズ・リサイタルに心地よさを感じているのです。そこでは、一晩あたりの収益額の大小は問題ではありませんでした。
75歳での復帰、その真意
彼が金銭的な成功よりも自身の信念を優先させた最初の例は、1972年にイエスが名盤『危機(Close to the Edge)』を完成させ、まさにワールドツアーを開始しようとしていた時期にバンドを脱退したことでした。奇しくも、このアルバムのスーパー・デラックス・エディションが2025年3月にリリースされています。75歳での今回の引退撤回。このタイミングは、彼の決断の真意を探る上でまさに絶好の機会と言えるでしょう。
長年の引退生活から一転、小規模なジャズの舞台を選んで復帰したビル・ブルーフォード氏。彼の音楽人生における新たなチャプターであり、過去の重要な決断とも繋がる今回の75歳での現役復帰。日本のビルボードライブでの来日公演は、その真意に触れる貴重な機会となるでしょう。