日本政治「三流独裁国」への転落か?思想家・内田樹氏が警鐘

「法を犯しても処罰されず、裏金も課税されず、失政をしてもメディアから追及されない」──この状況は、日本の政治が長年にわたり直面してきた深刻な問題を示唆しています。思想家の内田樹氏は、近著『沈む祖国を救うには』の中で、現在の日本の政治が「三流独裁国」へと転落しつつあると警鐘を鳴らしています。なぜ日本の政治はこれほどまでに没落したのか、内田氏の指摘する要因を探ります。

日本政治の現状:縁故主義と部族民主主義

内田氏は、現在の日本が「縁故主義」と「部族民主主義」によって「三流独裁国」へと転落しつつあると指摘します。特に自民党の一部世襲議員たちは、縁故関係で結びついた部族を形成し、国民から託された公権力を私利のために濫用し、公金を私物化していると批判しています。このような無法がまかり通るのは、エスタブリッシュメントのメンバーたちが互いに融通し合い、緊密な連携を通じて相互扶助ネットワークを築いているからだと分析します。

エスタブリッシュメントの相互扶助ネットワークと特権

エスタブリッシュメントは強固に連帯している一方、一般の国民、特に貧しい人々は「自己責任」を求められ、分断され孤立しているのが現状だと内田氏は述べます。歴史的に見ても、富裕層や権力者は常に相互扶助の仕組みを構築し、その恩恵を享受してきました。エスタブリッシュメントのメンバーに名を連ねれば、法を犯しても処罰されず、裏金を懐に入れても課税されず、どれほど失政をしてもメディアが深く追及しない、という特権を享受できる構造が存在すると指摘します。

日本の政治における相互扶助ネットワークと特権のイメージ日本の政治における相互扶助ネットワークと特権のイメージ

大衆に押し付けられる「自己責任」と分断

これに対して、貧しく政治的に無力な大衆には、「世の中に連帯などなく、全員が自己利益の最大化を目指して競争している」という新自由主義イデオロギーが吹き込まれ、信じ込まされています。内田氏は、このイデオロギーが大衆を苛烈な競争に駆り立て、互いの足を引っ張り合わせ、公共財の分配から遠ざけ、政治的に無力な状態に固定するために極めて効果的な役割を果たしていると主張します。エスタブリッシュメント自身はこの「新自由主義」を信じておらず、これは貧困層が社会的に上昇することを妨げるための、貧乏人向けイデオロギーであると喝破しています。

特権維持のための「小さな公共」への忠誠

ただし、エスタブリッシュメントのメンバーにも、その特権と引き換えに義務が課されています。彼らには職業選択や移動、言論の自由がなく、自身の属する部族に忠誠を誓い、命じられた役割を忠実に演じなければなりません。その代償として権力と富の分配にあずかっています。内田氏は、その恩恵があまりに豊かであるため、彼らは個人の自由を犠牲にしてでも、自身の「小さな公共」(部族)に忠誠を誓い続けているのだと論じています。

参照元:

  • 内田樹 著『沈む祖国を救うには』(集英社新書)より抜粋・再構成