イギリス下院、終末期患者の「安楽死」合法化法案を可決

イギリス下院は20日、終末期患者を対象とする「安楽死」を合法化する法案の最終採決を行い、賛成多数で可決しました。賛成314票、反対291票という結果でした。今後、上院での審議を経て修正される可能性はありますが、この可決はスイス、オランダ、カナダといった国々に続いて安楽死を合法化する動きにイギリスが近づいたことを示しています。

英下院での安楽死法案可決を受け、ロンドン国会議事堂近くで喜びを表明する人々英下院での安楽死法案可決を受け、ロンドン国会議事堂近くで喜びを表明する人々

法案の概要と対象者

英メディアの報道によると、もし合法化された場合、安楽死が認められるのはイングランドおよびウェールズの居住者で、余命が6カ月未満と診断された18歳以上の成人に限られます。手続きには、担当医を含む医師2人の同意に加え、弁護士、精神科医、ソーシャルワーカーから成る専門家パネルの承認が必要となります。命を絶つ方法は、医師が用意した薬物を患者自身が摂取することとされています。

修正条項と政治的背景

この法案は、2024年11月の初回採決で可決されて以降、下院での審議過程でいくつかの修正が加えられました。医師や薬剤師などの医療従事者が安楽死への関与を拒否できる権利が明記されたことや、医療関係者が18歳未満の患者に対して安楽死に関する話題を持ち出すことを禁じる条項が新設された点が主な変更点です。この法案は与党・労働党のレッドビーター下院議員によって提出され、党議拘束のない自由投票で採決が実施されました。初回採決では賛成330票、反対275票でしたが、最終採決では賛否の差が縮まり、僅差での可決となりました。スターマー首相(労働党)やスナク前首相(保守党)は初回と同じく賛成票を投じましたが、保守党のベーデノック党首は反対票を投じました。

可決の背景と国内の状況

英議会では過去にも同様の法案が提出されてきましたが、いずれも否決されてきました。しかし、2024年7月の総選挙で安楽死容認派の議員が多い労働党が14年ぶりに政権に返り咲いたことが、今回の法案可決の大きな要因の一つと見られています。また、5月に英調査会社ユーガブが実施した世論調査では、合法化支持が75%に達し、不支持の14%を大幅に上回るなど、国民の間でも合法化を支持する声が強いことが背景にあります。イギリス国内では、スコットランド議会でも安楽死合法化に関する法案が審議されていますが、北アイルランドでは現時点では議論は進んでいません。

世界の安楽死合法化の動き

欧米諸国では、アメリカの一部の州をはじめ、オランダ、ベルギー、スイス、カナダなどで医師による薬物投与などを伴う安楽死が既に合法化されています。カトリック信者が多く、特に自殺がタブー視されがちなスペインでも2021年に法制化されました。フランス下院も今年5月に安楽死を認める法案を可決しており、今後上院での審議が予定されています。一方、日本では安楽死は刑法で禁じられており、医師が安楽死に関与した場合、自殺ほう助罪や嘱託殺人罪などに問われる可能性があります。イギリスでの今回の動きは、世界の終末期医療や生命倫理に関する議論に新たな一石を投じるものと言えます。

Source: https://news.yahoo.co.jp/articles/78b717740d50efa9dd00a701586a3c296188fcd4