2025年6月7日、米国ロサンゼルスで発生した暴動は、移民関税執行局(ICE)による強硬な不法移民逮捕が引き金となりました。本記事執筆時点で死者は報じられていませんが、放火や略奪が発生し、約400人が逮捕される事態に至っています。市の一部地域には夜間外出禁止令が出され、状況の鎮静化が図られています。これに対し、トランプ大統領は州兵の出動を命じ、さらに海兵隊にも待機命令を発しました。しかし、この連邦政府による州兵動員を巡っては、連邦政府と州政府の間で緊張感が高まっています。政府の一部局に関する争いが、最終的には保守派とリベラル派の間の深刻な政治闘争へと発展している構図が見て取れます。
ロサンゼルス暴動:連邦政府の命令で州兵が出動する様子、州知事との権限争いが焦点に
米国社会における暴動の歴史的背景
そもそも米国は歴史的に見て暴動が頻繁に発生する国です。その歴史は暴動の歴史とさえ言われるほどです。特に1960年代以降だけでも、10件以上の大規模な暴動が発生しています。
過去の主な大規模暴動事例
- 1965年 ワッツ暴動(ロサンゼルス): 43人が死亡する大規模なものでした。
- 1968年 マーチン・ルーサー・キング暗殺関連暴動: キング牧師暗殺を機に、100以上の都市で暴動が発生。39人が死亡し、2万人以上が逮捕されました。
- 1992年 ロサンゼルス暴動: 黒人男性ロドニー・キングへの警察官による暴行事件で、起訴された警察官全員が無罪となったことを受け発生。死者63人、負傷者2300人超、逮捕者1万2000人という甚大な被害をもたらし、損壊した建物は1100棟以上に及びました。当時のブッシュ大統領(父)は陸軍と海兵隊を動員して鎮圧に当たっています。
- 2020年 ジョージ・フロイド殺害関連暴動:ミネソタ州での黒人男性ジョージ・フロイド氏が警察官に殺害された事件は、全米50州、2000もの都市で暴動を引き起こしました。この一連の暴動で20数人が死亡、1万4000人以上が逮捕されています。この出来事を契機に、「Black Lives Matter」運動が世界的に拡大しました。
- 2021年 連邦議会乱入事件(ワシントンD.C.): 人種差別に起因するものではありませんが、大統領選挙結果の上院での認証を阻止しようとしたトランプ支持者らが連邦議会議事堂に侵入するという前代未聞の事態が発生しました。
これらの事例からもわかるように、米国では保守派であれリベラル派であれ、政策に対する不満を抗議行動として示すことが一般的であり、その抗議が何かのきっかけで暴動へとエスカレートするケースが度々見られます。
連邦政府と州政府の間で高まる緊張
今回のロサンゼルスでの暴動に関連し、連邦政府が州知事の承認を得ずに州兵の出動を命じたことは、連邦政府と州政府の権限、特に有事における軍事力(州兵は平時は州知事の指揮下にある)の指揮権を巡る深刻な対立を浮き彫りにしています。この問題は、移民政策という具体的な争点を越え、連邦の権限拡大を目指す動きと、州の自律性を守ろうとする動きという、米国政治における根深い保守派とリベラル派の対立構造とも関連しています。
結論:繰り返される暴動と政治の分断
ロサンゼルスで発生したICE抗議に端を発する暴動は、単なる局地的な騒乱ではなく、米国の歴史に繰り返されてきた社会的不満が暴発するパターンの一つと言えます。特に今回は、不法移民問題という敏感なテーマが背景にあり、さらに暴動鎮圧のための州兵動員を巡って連邦政府と州政府の間で明確な権限争いが表面化しています。この事態は、米国の政治・社会が抱える根深い分断と、危機対応におけるガバナンスの課題を改めて提示しています。ICEを巡る争いが、より広範な政治的権力闘争へと発展している現状は、今後の米国政治の行方を示唆しているのかもしれません。