退職の意思を本人に代わって会社に伝える「退職代行サービス」が今、大きな注目を集めている。少し調べただけでも100社を超える業者が存在し、中には2980円という低価格を打ち出すところから、音楽系YouTuberが監修を謳う個性的なサービスまで多岐にわたる。この「退職代行ブーム」とも呼べる現象の背景を探る。
退職代行サービスの種類や費用帯を示す画面イメージ集。2980円の低価格から多様な業者が存在し、その数が100社を超える現状を表現。
退職代行の広がりと利用者の変化
退職代行サービスは、2017年に東京の「EXIT」という企業が日本で初めて専門事業として開始した。当初は、長時間労働やハラスメントなど「ブラック労働」に苦しみ、会社を辞めたくても自分からは言い出せない人々を主な対象として想定されていた。
しかし、サービスの認知度が向上するにつれ、利用者の層は多様化。精神的な負担を避けたい、手続きが面倒、上司との直接対決を避けたいといった理由から、比較的良好な労働環境にある人々や、さらには入社初日に利用するというケースまで見られるようになった。この利用者の拡大が、市場の成長を後押ししている。
運営主体によるサービス内容の違い
現在、退職代行サービスを提供している事業者は、主に民間業者、労働組合、弁護士(法律事務所)の3種類に分類される。これらの運営主体によって、提供できるサービスの範囲が法的に定められており、大きな違いがある。
最も数が多いのが民間業者である。原則として、会社への退職意思の伝達を行うことしかできない。これは、未払い賃金や退職金の請求、慰謝料の交渉など、法的な交渉行為は弁護士法によって弁護士にしか許されていないためだ。民間業者がこれらの交渉を行うことは非弁行為として違法となる可能性がある。
次に労働組合が運営するケースがある。この場合、依頼者が一時的にその労働組合に加入することで、労働組合法に基づく団体交渉権を行使して会社と交渉することが可能となる。ただし、労働組合ができる交渉も労働条件や職場環境に関するものに限定され、慰謝料請求といった訴訟に発展しうる案件には対応できない場合が多い。
最も幅広い対応が可能なのが弁護士だ。弁護士は法律の専門家であり、依頼者の代理人として会社と法的な交渉を全て行うことができる。未払い賃金や退職金の請求、ハラスメントに関する慰謝料請求、さらには裁判への対応まで依頼できる。
費用相場と激化する価格競争
運営主体が異なることで、サービスの費用相場も大きく変わってくる。一般的に、対応範囲が最も限定的な民間業者が最も安価であり、1万円台でサービスを提供している業者も少なくない。
労働組合が運営するサービスは、団体交渉が可能となる分、民間業者よりも費用は上がり、2万円から3万円程度が相場とされる。
一方、最も包括的な法的対応が可能な弁護士に依頼する場合、費用は最も高額になり、5万円から10万円程度が相場となる。
特に事業者数の多い民間業者間では、激しい価格競争が繰り広げられている。「業界最安値」を謳う業者が次々と現れ、中には極端な低価格(例:500円と報じられたケースなど)で集客を図ろうとする動きも見られる。この価格競争は、利用者にとっては選択肢が増えるメリットがある一方、サービスの質や信頼性を見極める難しさも生じさせている。
まとめ
退職代行サービスの需要拡大に伴い、事業者の数は急増し、サービス内容や費用に多様性が生まれている。民間業者、労働組合、弁護士という運営主体の違いを理解し、自身の状況やニーズに合ったサービスを選ぶことが重要となる。過熱する市場において、信頼できる業者を見極める目が今後ますます求められるだろう。